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第1章 コンピュータネットワークの利用

1.1 World Wide Webの利用

1.1.1 この科目の目標

この科目「情報A」では、「コンピュータネットワーク」をテーマにして、ネットワークからの情報の取り出し方、ネットワークへの情報発信のやり方、ネットワーク上の情報の取り扱い方などを総合的に学んで行きます。 この科目を学ぶ過程では、コンピュータをさまざまに操作して見ることもありますし、コンピュータは脇に置いて「どういう仕組みか」「なぜそうなっているのか」を考えることもあります。 高等学校は「パソコン教室」ではありません。ですから、この科目の目的には「コンピュータが使えるようになる」ことだけではなく、「なぜ」「どのように」について理解することも含まれています。そうしておけば、皆さんが社会に出た時に、まったく新しいコンピュータの使い方に出会っても、きっとうまくやって行けるでしょう。 しかしそれはそれとして、コンピュータを通じて世界中のさまざまな情報に接したり、多くの人とやりとりするのはとても楽しいことです。まずはその楽しさを味わって、楽しいことは素直に楽しみましょう。

演習
コンピュータは世の中でどのような形で役に立っていますか。具体的な例を3つ挙げなさい。 上で挙げたうちで、ネットワークがなかったら不可能なものはどれとどれですか。

1.1.2 情報とは何か

まず最初に、情報とは何かについて考えてみましょう。かって、戦国時代の武将たちは、「のろし」や旗などを使って、遠くの砦が攻撃されたことや援軍を送ったことなどを伝えあいました。人間の頭の中に詰まった情報自体には形がありませんが、こうして外に現われた情報はさまざまに取り扱ったり、量ることもできます。私たちがこれから学ぶのも、この取り扱ったり量ったりできる形の情報です。

メモ
情報の量り方やさまざまな情報の表し方は第3章で取り扱います。

ここで重要なのは、ある情報がどれだけ重要か、ということは人間が決めることだということです。たとえば、戦国武将にとっては「お腹が空いたか? はい/いいえ」という情報と、「敵が攻めて来たか? はい/いいえ」という情報では後者の方がはるかに重要な情報だったはずです。 コンピュータやネットワークはどのような情報でも分け隔てなく取り扱いますが、それをどう判断するかは人間の仕事だということは心に留めておいてください。

演習
あなたにとって重要な情報の例を挙げよ。また、あなたの友人にとっては重要だがあなたにとっては重要でない情報の例を挙げよ。その重要さの違いは何に由来しているか考えよ。

1.1.3 インターネットから情報を取り出す

皆さんはインターネットということばについて聞いたことがあると思います。インターネットとは、世界中のコンピュータどうしを互いにつないで情報をやりとりできるようにしたものです。具体的にはさまざまな機器やケーブルでつながっているのですが、ちょうど国際電話網と同じように、つながり方を知らなくても相手のコンピュータの名前 (電話番号に相当)だけ知っていれば自由にやりとりが可能です(図 1.1)。

図1.1 インターネット

用語
インターネットとは、世界中の多数のコンピュータを相互につないで情報をやりとりできるようにしたものです。インターネットについては、 1.3節でもっと詳しく学びます。

インターネットにつながったコンピュータからは、さまざまな方法で情報を取り出すことができます。たとえば、離れたところにいる知合いから電子メールと呼ばれる「コンピュータの上でのはがき」をもらうことで情報を取り出すことも、ネットニュースと呼ばれる「コンピュータの上での新聞」を読むことで情報を取り出すこともできます。ここでは最初の一歩として、ワールドワイドウェブ、または略してWWWとかWebとも呼ばれる、いわば「コンピュータの上での掲示板」からさまざまな情報を取り出してみましょう。

図1.2 インターネット上の葉書/新聞/掲示板

演習
「はがき」と「新聞」と「掲示板」にはどのような違いがあるか、それぞれにどのような利点と弱点があるかを考えてみよ。また、これらが「コンピュータの上に」あった場合はその利点や弱点はどのように変化すると思うか、考えてみよ。

1.1.4 WWWとはどんなものか

WWWはインターネット上で情報をやりとりする仕組みの1つで、1995年ころから急速に普及しました。WWWでは、情報を見るのにWebブラウザ と呼ばれるプログラムを使います。ブラウザはインターネットを通じて各地にあるWebサーバと呼ばれるプログラムに接続して情報を取り出してきます。サーバが情報源、ブラウザが情報を受け取る手段ということになります(図1.3)。

図1.3 WWWの概念

テレビ放送で言えば、Webサーバは放送局、Webブラウザはテレビ受信器に当たります。ただし、テレビは電波やケーブルの届く範囲の放送局の情報しか受け取れませんが、WWWでは世界中の数十万箇所にある、どこのWebサーバの情報でも受け取れますし、混信することもありません。 WWWでは受け取る情報の単位はWebページと呼ばれ、ブラウザの画面上で画像とテキスト(文字)のまざった形で眺めることができます。また、ページの中には音声や動画を含めることもできます。このように、コンピュータで多く使われるテキスト情報以外の各種形態の情報を使用可能なことから、WWWはマルチメディアのシステムであると言います。

用語
WWWとは、インターネット上で、Webページという単位で情報をやりとりする仕組みです。情報を発信するプログラムをWebサーバ、情報を見るプログラムをWebブラウザといいます。
用語
テキストの情報とは、文字の集まりから成る情報をいいます。マルチメディアの情報とは、音声、画像、動画など、文字以外のものが混ざった情報をいいます。

WWWではさらに、ページ内のリンクと呼ばれる部分を選択すると、それぞれのリンクが指している別のページが取り出されて表示されます (図1.4)。このように、複数の情報単位が相互に関連づけられ、その関連をたどることで情報を取り出して行けるようなシステムのことをハイパーテキストと言います。

図1.4 リンクをたどる

用語
リンクとは、ある情報の中に他の情報のありかを埋め込んであるものをいいます。多数の情報をリンクで相互につないだものを ハイパーテキストといいます。また、マルチメディアの情報が中心の場合には、 ハイパーメディアの情報と呼ぶこともあります。

1.1.5 WWWで情報を見る

ではそろそろ、WWWで実際に情報を見てみましょう。コンピュータでWeb ブラウザを起動すると、設定されている初期画面(図1.5) が表示されます。

図1.5 Webブラウザで表示された最初のページ

メモ
ブラウザが表示する最初のページや、ある話題、あるサイトなどの主要な(最初に表示される)ページのことを入口ページウェルカムページホームページなどと呼びます。人によってはWebページすべてのことやWWW全体のことを指して「ホームページ」と呼ぶことがありますが、これは正しい使い方ではありません。

ここで、表示されたページの中に下線つきや違う色の文字などで表示されている箇所は、そこがリンクであることをあらわします。そこにマウスカーソルを持っていくと、画面下端に文字列が表示されます。これがリンクの指している先の「番地」を表します。この状態でリンクを選択すると、ブラウザの画面が切り替わって指した番地のページが表示されます。リンクを選択する具体的な操作はブラウザによって違います。 図1.6は先の画面で「日本の情報」と記されたリンクを選択したときの表示です。このページには日本に関するさまざまな情報が表示されています。

図1.6 「日本の情報」ページ

演習
ブラウザでWWWのページを見てみましょう。また、さまざまなリンクをたどってみましょう。

1.1.6 URL --- Webページの番地

先に、リンクの上にマウスカーソルが置かれると「リンクが指している番地」が見えることを説明しました。そして、リンクを選択すると新しいページが表示されます。またリンクによっては、新しいページが表示される代わりに音が出たりするかも知れません。 このように、WWWが扱うネットワーク中のさまざまなもの --- Webページや音や画像やその他のもの --- には、すべて「番地」がついています。この番地の形式のことをUniform Resource Locator、略して URLと呼びます。たとえば「日本の情報」ページは

http://www.ntt.co.jp/japan/index-j.html

というURLを持っていました。ページが表示されるとき、ブラウザの窓のどこかにこのURLが表示されているはずです。

図1.7 URLの構造

URLは図1.7に示すように、プロトコル、サーバ、パスという 3つの成分から成っています。これは例えていえば「はがき」「新聞」など媒体の別、はがきだとして宛先人の住所、その住所のどの部屋の誰か、という情報にそれぞれ相当しています。 新聞広告や、商品の箱などに、宣伝用のページのURLが記載されているのもよく見かけます。そのページが見たければ、ブラウザの入力欄にそのURLを打ち込むことで、そのページが表示されます。 しかしせっかくコンピュータがあるのに、なぜわざわざ新聞広告でURL を教えているのでしょう? それは、あるページを見るには、何らかの方法でそのURLを教えてもらわなければならないからです。たとえば別のページからリンクしてもらう、というのも「教えてもらう」方法の1つです。 ちょうど、電話番号というとても便利な「番地」も、はがきや名詞や電話帳で相手に伝えないと役に立たないのと同じだと言えます。片方が相手の電話番号を知っていれば電話を掛けて教えることができるのも似ています。

演習
新聞や広告などからURLを調べて来て、ブラウザでそのページを表示させてみよ。

1.1.7 ディレクトリサービス

次々にリンクをたどりながらページを見ていくのは、漠然とどんな情報があるか眺めるのにはよい方法ですが、特定のことがらについて調べようとする場合にはあまり向いていません。WWWでそのような場合に利用できるサービスとして、ディレクトリサービス検索サービスがありますから、これらについて学んでいきましょう。 ディレクトリサービスというのは、さまざまな情報を持ったWebページを、情報の種類ごとに分類整理して示すようなサービスを言います。ディレクトリというのは、「登録簿」という意味です。 たとえば、情報全体をまず「趣味」「科学・技術」「経済・社会」の3 つに分け、「趣味」の中を「芸術」と「スポーツ」に分け、というふうに大分類から小分類に向かって細かくしていくことが考えられます。 WWWページのリンクを使ってこれと同じ構造を用意しておけば(図 1.8)、分類に沿ってリンクを選択していくことで自分の興味のあるページにたどりつくことができます。

図1.8 ディレクトリサービス)

用語
ディレクトリサービスとは、WWWの情報を項目ごとに分類整理して探せるようにページとリンクを構成しているものを言います。
メモ
ただし、情報の分類のしかたはひと通りではありません。たとえば、「スポーツ医学」は「スポーツ」にも「医学」にも関係がありますから、どちらの分類からもたどれるようにしたいわけです。そして、紙の百科辞典などと違い、WWWではある1つのページを複数の視点から分類することが簡単にできます。 そうは言っても、あらゆる分類方法をあらかじめ用意しておくことはできませんから、ディレクトリサービスではよく使われそうないくつかの分類方法を選んでその枠組みに沿った分類を行います(サービスの提供元によってそれぞれ分類のしかたも違います)。それがあなたがいつも使っている分類方法と違っていると、なかなか探しているものを見つけることができなかったりします。
演習
まず探したいと思うことがらを決めて紙に書き、次にディレクトリサービスを使ってそのことがらについて記したページを探してみよ。どのように探して行ったか記録をとること。また、分類のされかたに違和感があれば、それはどういう所かも考えてみよ。

1.1.8 検索サービス

特定の情報を効率よく探すもう1つの手段は、検索サービスを利用することです。検索サービスでは、分類をたどる代わりにWebページの入力欄に直接探したいものをあらわす言葉を打ち込むことで情報を探していきます。具体的には、指定した単語が中に含まれているようなページを探して来てくれるのです。 ある1つの単語だけでは非常に多くのページが見つかってしまう場合には、さらに単語を追加して、2つの単語をともに含むページ、3つの単語をともに含むページなどを探すこともできます。条件を厳しくしていけば、見つかる数も少なくなって行きますから、何通りか試して行くうちに自分が読みたいと思うようなページが見つかる可能性が高くなります (図1.9)。これを絞り込み検索と呼びます。

図1.9 検索サービスの概念

用語
検索サービスとは、単語や複数の単語を指定すると、それらを含むページを探して来て一覧を示してくれるようなWWW上のサービスを言います。検索サービスのことを検索エンジンと呼ぶこともあります。

検索サービスではこのように、単語さえ打ち込めば直接それに関係したページが探せ、件数が多すぎればさらに絞り込むのも簡単にできるという利点があります。また、検索サービスでは世界中のWebページを 探索ロボットと呼ばれるプログラムで自動的に調べて情報を収集するのが普通なので、とくに登録を行なわなかったページでも調べられ、その結果調べられるページの範囲がディレクトリサービスよりずっと多くなります。

演習
まず探したいと思うことがらを決めて紙に書き、次に検索サービスを使ってそのことがらについて記したページを探してみよ。見つかったページの数が多すぎた場合には条件を追加して絞り込み検索すること。各段階での、条件と見つかった数を記録すること。

1.2 WWWとコミニュケーション

1.2.1 メディアと表現

メディアないし媒体とは「何らかの情報を伝達する手段」を意味する、非常に範囲の広い言葉です。コンピュータネットワークなどの通信技術ではケーブルなど情報を伝える材質を「通信媒体」と呼びますが、単に「メディア」と呼ぶ場合にはずっと広い意味を持ち、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などのマスメディア(大衆を相手とするメディアという意味)や、おしゃべり、電話、手紙など、人と人が情報をやりとりするものすべてが含まれます。 メディアが運ぶ物理的なもののことを、表現と言います。新聞の紙面、テレビの画像と音、おしゃべりの時の音声、見ぶり、手ぶり、表情などはすべて表現に当たります。 これと対比して、情報の送り手が伝達したいと思うことがらそのものを 意図と呼びます。すべてのメディアにはそれぞれ固有の制約や限界がありますから、情報の受け手にすべての意図を完全に伝達することは原理的に不可能です。言い替えれば、送り手の意図と受け手が受け取った意図との間には、不一致が存在するのが普通です(図1.10)。そして、その不一致の現われ方はメディアの種別によって違って来ます。

図1.10 メディアと表現の関係

用語
何らかの情報を伝達する手段をメディアないし媒体といいます。新聞やテレビなど、多くの人を対象とするメディアを マスメディアといいます。
演習
A群の情報をB群のメディアのそれぞれで伝えようとした場合の適否やその理由を表の形でまとめてみよ。

1.2.2 情報伝達と評価

1対1のメディアの場合には、疑問点について質問するなど、何回もやり取りすることで送り手の意図と受け手の理解との不一致を小さくして行くことができます。しかし、マスメディアの場合にはそのような手段があまりありません。 また、送り手が送ったものが何らかの真実を反映しているかどうかは、その表現だけでは分かりません。場合によっては、送り手はわざと偏った情報を送ることで、受け手を自分の都合のよいように操作しようとすることすらあります。これを情報操作といいます。

メモ
これは、送り手が必ずしも嘘をついていることを意味しません。たとえば、複数の正しい情報のうちから、送り手にとって都合の悪い情報を伝えず、都合のよい情報だけを伝えるというのは、情報操作の古典的な手法です。

情報操作やその他の正しくない情報に対して防御するためには、複数のメディアからの情報を比較したり、常日頃からそれぞれのメディアの特性について注意を払っておき、自分なりの評価を持つことが大切です。

演習
数名ずつのグループに分かれ、各自の家で購読している新聞を持ちよります(なるべく違う新聞が集まるようにグループわけを工夫してください。英字紙、経済紙などもあるとよいでしょう)。それらの新聞に乗っている共通のテーマ(事件やスポーツの報道など)を1つ選び、新聞ごとにその記述内容や表現(見出しの大きさや選び方)に違いがあるかどうか、検討しなさい。

1.2.3 WWWにおける情報伝達

ここまでで、一般のメディアにおける情報伝達について見て来ましたが、 WWWの場合はどうでしょうか。WWWは、一般のメディアと違った次のような特性を持っています。

こうして見ると、WWWは極めて強力なメディアですが、その分だけ大きな危険をはらんでいることが分かります。 従来のマスメディアでは編集者やプロデューサといった、発信する前に情報を整理しチェックする人が存在しました。また、誤った情報や社会的に問題のある情報が流されれば多くの読者がそれに気づき、問題点を正すような社会的圧力が働きます。 しかし、WWWの情報は一人だけで発信可能ですから、上で述べたようなチェックは発信者一人の中でだけしか働きません。まして発信者が意図的に情報操作を行おうとしたら、それを止めるものはありません。また、その情報を見た人があなただけであれば、他人の目によるチェックも存在しません。

メモ
たとえ多くの人が見て、誰かが問題に気づいたとしても、それを訂正させるのは難しいかも知れません。発信者に忠告したとしても、発信者がそれを無視した場合、他に取れる手段がないのです。世界中のユーザのマシンにこれこれのWebページには間違いがあるから注意しろというポストイットを貼って歩くことは不可能でしょう。

ですから、可能な唯一の対策は、WWWで情報を取り出す人が、発信者の意図や上のような危険性を理解した上で、持って来た情報をどのように使うか決めることだと言えます。

1.2.4 情報の正しさを読み取る

先に述べたように、意図の明確さと情報の正しさとは別の問題です。では、あるページに書かれた情報が正しいかどうかを、どうやって判断したらいいでしょう。いくつか可能性を挙げて見ます。

演習
先の演習で取り上げたページからいくつか選び、上述の方法でそれぞれ正しさを確認してみよ。「自分の考え」はどれくらい当てになったか?

1.2.5 WWWで発信者の要求に応える

ここまで学んだ範囲の機能では、たとえば自分が発信者になったとしても、それを読んだ人は「だまって」ページを読んでいるだけで、反応を返してくれませんね。しかし、発信者としては自分のページを読んだ人がどのような感想を持ったか知りたいだろうと思います。また、もっと積極的に、アンケートのように読んだ人の意見を集めることをおもな目的として情報を発信することもあるでしょう。 このような要求にこたえて、WWWでは、情報の受け手が発信者に情報を返す機能が備わっています。それには、たとえば図1.11のような画面を使います。このような「記入用紙」の機能をWWWでは フォームと読んでいます。

図1.11 記入用のフォーム

フォームには、記入欄やいくつかの選択肢から項目を選ぶ仕掛けなどの「部品」が並んでいて、これらを自分の回答内容に会わせて設定してから提出ボタン(「提出」「送信する」などと書かれているボタン)を押すことで、記入内容が発信者に転送されます。フォームのような機構は、これまで一方通行だったWWWを発信者と受信者が相互にやりとりできるものに変えました。

メモ
フォームなどに現われる典型的な「部品」としては、次のようなものがあります。
演習
演習用のフォームに記入して送信してみよ。

1.2.6 個人情報とプライバシー

ところで、前節のフォームをすべて記入して送信するのは、実は問題があります(今は学校の中での練習ですからいいのですが)。なぜだか分かりますか。 フォームの末尾に、あなたの名前や電話番号を記入する欄がありました。しかし、このような個人を表す情報を不用意に提供することは危険です。先に学んだように、WWWでの情報発信者がどのような意図を持っているか、正確には分からないわけですから。

メモ
もちろん、街中のアンケートでも同様の危険はありますが、WWWでは悪意を持った人がとても廉価かつ大規模に情報を収集できてしまうという問題点があるわけです。

具体的には、どのような危険があるのでしょうか?

このような危険を考えると、あなたのものでも、あなたの友人のものでも、個人情報の取り扱いには十分な注意が必要だと分かります。

演習
自分の次に挙げた個人情報のうち、何と何が他人に知られた場合、どのように悪用される可能性があるかを列挙してみよ。

1.3 コンピュータネットワークとプロトコル

1.3.1 コンピュータネットワークとは

ここまでで、WWWを使って情報を取り出すやり方や、その際に考えなければいけないことを学びました。この節では原理に立ち帰って、ネットワークの成り立ちやしくみについて学びます。 コンピュータネットワークとは、複数のコンピュータシステムが相互に自律的に情報をやりとり(通信)できるように構成されたシステム(ハードウェアとソフトウェアの複合体)のことを言います。この場合自律的とは、それぞれのコンピュータが、いつどんな情報をやりとりするかを、他のコンピュータに指示されてでなく独自に決定し実行することを言います。

メモ
たとえば、あなたがブラウザであるページを開くと、手元のコンピュータはそのページに含まれている情報をサーバが動いているコンピュータから取り寄せますが、前にそのページを表示したときの情報が残っていれば取り寄せを省略することもできます。どちらにするかは、手元のコンピュータの内部で自律的に判断するわけです。

一般に「ネットワーク」と言った場合、人と人とのつながりや、テレビなどの放送網や、鉄道など交通機関の連携しているようすを指すこともありますが、以下ではコンピュータネットワークのことを指して単に「ネットワーク」と記すことにします。

演習
コンピュータネットワーク以外に「ネットワーク」と呼ぶようなものをできるだけ多く挙げなさい。また、それらに共通している性質や、それらの違いについて、表の形にまとめて整理しなさい。

1.3.2 ネットワークの通信路

あるコンピュータから別のコンピュータに情報を伝えるには、それらの間で情報をやりとりするための通信路が必要です。通信路を構成する手段のことを通信媒体と呼びます。たとえば普通の電話では通信媒体は銅線ですが、携帯電話では電波ということになります。 コンピュータどうしの通信では、媒体は銅線か光ファイバーが一般的ですが、その上での伝送方式としてさまざまなものが使われており、それに応じてケーブルの規格や本数や配線のつながり方も変わります。 コンピュータで使われる伝送方式は、すべて0/1から成るディジタル情報を伝えるディジタル伝送であるという点が、(ディジタル放送でない)テレビやラジオなどの場合と比べて大きな違いになっています。 1つの通信路が、何種類かの通信媒体や伝送方式を組み合わせて構成されることもよくあります。その場合は、通信媒体や伝送方式が切り替わる場所にそのための中継装置が必要になります。

演習
演習に使っているコンピュータシステムに直接、間接につながっている通信路について、まず自分たち独自に調べて何がどうなっているか推定し、続いて説明を聞いてどれくらい合っていた/間違っていたか自己評価せよ。

1.3.3 LANとWAN

1つの組織(学校や企業など)の内部で、局所的なネットワークを構成したものをローカルエリアネットワークないしLANと言います。皆さんが実習に使っているコンピュータどうしはLANの機器でつながっています。LANの規模は、1つの部屋の中だけに収まるものから、ビル全体や1つのキャンパス全体にまたがるものくらいまで考えることができます。 LANではコンピュータどうしの距離が近いため、高速な通信が可能です。このため、LANは次のような用途に使われています。

LANよりも広い範囲にまたがるネットワークを広域ネットワークないしWANと呼びます。みなさんのコンピュータとインターネットを接続しているのはWANの機器です。WANには、たとえば大学の複数のキャンパスや企業の複数の事業所を結んだWAN、同一の目的を持つ組織が相互接続してできたWAN、通信事業者が構築したWANなどがあります。 WANはコンピュータどうしの距離が離れているためLANほど高速な通信はできませんが、離れた距離にある利用者どうしの通信手段や共同で作業をするための手段として多く使われています。

演習
WANを使うと、ある場所にいながら離れたところにあるコンピュータに接続して利用できます(前節に出て来た仮想端末サービス)。しかし、手元にもコンピュータがあるのに、なぜわざわざ離れたところのコンピュータを使うのでしょう。考えられる理由を列挙しなさい。

1.3.4 インターネット

1970年代中頃、アメリカのARPANETと呼ばれるネットワークがありました。ARPANETは、情報の転送経路にいろいろな障害があっても、障害を回避して別の転送経路に自動的に切り替わったり、大きなデータを細かく分割して発信し、受けとる側でそれを元のデータに復元する、すぐれた機能がありました。ARPANETの用いる通信方式はアメリカの大学・研究施設などに広まり、さらなる改良を受けて、より多くの大学を接続するようになりました。これが、インターネットのはじまりで 1983 年頃の話です。

メモ
インターネットは英語で、「The Internet」です。The がついて、大文字で始まります。

ARPANETで開発された技術を使えば、2つのネットワークが直接つながっていなくても、いくつかのネットワークを介して間接的につながっていさえすれば通信が可能です。つまり、ネットワークAのマシンaから間にあるネットワークB、Cを経由してネットワークDのマシンdに到達することができるのです(図1.12)

図1.12 インターネットの原理

インターネットはこれをさらに発展させ、国をまたがって多くのネットワークを相互に接続することでできています。つまり、「世界中にまたがるネットワークのネットワーク」がインターネットです。 インターネットは「ネットワークの集合体」ですから、単一の管理組織のようなものは存在しません(インターネットに関わるネットワーク共通の規約や技術を話し合う組織は存在しますが)。ただし実際にインターネットを利用する上では、個人や学校がインターネットプロバイダ (料金を取ってネットワークに接続させてくれる企業)と契約したり、 ネットワークプロジェクト(研究、教育、その他の目的で共同で資金を出してネットワークを維持しているもの)に参加することになりますから、そのプロバイダやプロジェクトの規約に従うことは必要です。

演習
あなたが使っているコンピュータからインターネットの各所への経路はどのようになっているか、調べられる範囲で調べなさい。プロバイダを経由している場合は、雑誌などにプロバイダ間の接続情報が掲載されています。

1.3.5 通信プロトコル

インターネットで多数の機器や媒体を介して正し宛先まで情報が伝わって行くためには、多くの約束ごとが必要です。この約束のことを、 通信規約または通信プロトコルといいます。

図1.13 RFCを掲載しているWebページ

インターネットでは、NIC(Network Information Center)という組織が管理・流通させているRFC(Request For Comment) と呼ばれる規約があります。インターネットを用いて情報を流通させる人は、このRFCの規約に従った情報を流通させる必要があります(図1.13)。 コンピュータネットワークの発展の初期にあっては、さまざまな研究施設・コンピュータメーカが、それぞれ独自の約束に従ったネットワークを作りました。このため、異なるメーカのコンピュータどうしを接続するのは大変な場合が多かったのです。インターネットが普及したおかげで、現在ではほとんどのコンピュータどうしがインターネットのプロトコルに従って通信できるようになっています。

1.3.6 プロトコル階層

通信プロトコルは、さらに細かく見るといくつもの階層に分かれています。 たとえば、ケーブルどうしを接続するには、コネクタの形が合わないとつなげませんから、コネクタの形の規格が必要です。次に、ケーブルを通る信号の電流や電圧に関する取り決めも必要です。これとは別に、ある情報を正しく宛先に送り届けるには宛先の指定方法に関する規格がなければなりませんし、WWWや電子メールではURLやメールアドレスの指定方法の規格が必要です。 これらをすべて一緒くたに考えることは到底無理なので、プロトコル全体を複数のレベルに分けて決めてあるのです。これを プロトコル階層と呼びます。 プロトコルの階層構造を私たち人間のコミニュケーションにあてはめて考えてみましょう。AさんがBさんにある考えを伝えるというのが、一番上位の階層にあたります。これを仮に「思考層」と呼びます。次に、考えを伝えるためにはそれを日本語で表します。これを「言語層」と呼びます。しかし相手にそれを伝えるには、口に出してしゃべる必要があります。これが伝達層です。そして、しゃべった言葉は空気の振動になって相手に伝わって行きます。これを物理層と呼びます (1.14)。

図1.14 プロトコルの階層性

上位のプロトコルが使える限り、ある階層から下のプロトコル群を取り替えても、同じように通信ができます。たとえば日本語がわからない人でも、代わりに英語で同じことを伝えることができます。またガラス越しなどで音が伝わらないときは、代わりに紙に文字を書いて示せば同じことを伝えられます。ネットワークの通信プロトコルでもまったく同様に、上位のプロトコルが同じであれば下位のプロトコル(通信媒体など) を取り替えてもこれまでと変わりなく通信ができます。

演習
50音図を書き、それぞれの文字に固有の番号をつけよ。Aさんがひらがな文を書き、Bさんがそれを番号の並びに書き換え、CさんがBさんから受け取った番号の並びをひらがなに戻し、Dさんに渡すとする。4人でA さん、Bさん、Cさん、Dさんの役割を分担して実行してみて、分かったことを記せ。またそれぞれの関係をプロトコル階層になぞらえて整理してみよ。
演習

1.3.7 状態と状態遷移

プロトコルを理解する上で訳に立つもう1つの概念として、 状態遷移という考えかたがあります。 たとえば電話を掛けるには、まず電話器を取り、ダイヤルするとベルが鳴り、相手が出るとつながります。そして話し終わって相手が受話器を置くと、他方は「切れた」状態になって断続音が出ます。掛けた時に話し中のときも、同じ音がします。どちらでも、受話器を置くと最初に戻ります。こちらが先に切った場合も最初に戻ります(相手の側には断続音が出ますが、こちらにはそれは分かりません)。

図1.15 状態遷移図

このように日本語で書くと難しいですが、これを図1.15のような状態遷移図と呼ばれるもので書くと分かりやすくなります。状態遷移図では、それぞれの状態を○で表し、どういう場合にどの状態からどの状態に移るかをすべて矢線で表します。最初はどの状態にいるかは外から入って来る矢線で明示しています。 ネットワークプロトコルの場合も、この電話の例と同じように、どうやって通信を始め、どうやって通信を終えるかを状態遷移図で考えることができます。

演習
前問のプロトコルを、カタカナも送れるように直せ。(ヒント:どの文字でもない組合せを2つ用意して「これからカタカナ状態」「これからひらかな状態」という状態の切り替えを行えばよい。)
演習
自分の使っているビデオの録画予約の流れを状態遷移図で表してみよ。

1.3.8 情報サービス

プロトコル階層の最上位には、個々のアプリケーション(応用)に対応した応用層があります。一般のプログラムの場合には、アプリケーションはそれぞれ単独で動作することができますが、ネットワークを使うアプリケーションの場合には、プログラムどうしが互いに通信するために共通のプロトコルが必要なのです。 応用層ではおおむね、1つのプロトコルが1つの情報サービスに対応しています(ただしいくつか例外もあります)。電子メールやWWWは情報サービスの例です。これらの情報サービスを提供するために、コンピュータ上で常時動作しているプログラムをサーバといいます。これに対し、利用者がこれらのサービスを使う時に起動するプログラムをクライアントと呼びます。Webサーバはサーバの一種であり、Webブラウザはクライアントの一種だといえます。

用語
サーバとは、何らかのサービスを提供するためにコンピュータ上で常時動作しているプログラムを言います。クライアントとは、サーバと通信してサービスを利用するプログラムを言います。
演習
社会にも、サーバとクライアントの関係にあるものが多数存在している。たとえば、商店はサーバで、そこに来る顧客はクライアントだと言える。そのほかにサーバとクライアントの関係にあると思うものを列挙してみよ。

1.3.9 セキュリティ

ネットワークにつながっているコンピュータを使っていると、ネットワークを通してさまざまな情報が、使っている人の意図しないところにまで配られてしまうことがあります。また、悪意を持って他人の使っているコンピュータに侵入を試み、情報を盗み出したり、そのコンピュータ上の情報を破壊したりする人もいます。こういった行為は、 クラッキングと呼ばれ、犯罪行為です。 また、ネットワークを使って情報交換をしていると、中継の最中に内容が故意に書き換えられてしまうこともあります。したがって、情報の信頼性に問題が生じてしまうことがあります。 そこで、このような漏洩・侵入・破壊・改変を未然に防ぐために考えられる対策のことを、総じてセキュリティといいます。

演習



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