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第1章 情報社会と私たちの生活

<パーソナルコンピュータ>
情報社会は、コンピュータとそのコンピュータどうしを結ぶデータ通信網により形成されている。しかし初期のコンピュータは他のコンピュータとは接続されていないスタンドアロンという単体の形態で、主に数値計算に使われていた。コンピュータの低価格化により個人でも購入することができるようになり、また音声や映像などがディジタル化され、それらのマルチメディアなデータを簡単に扱うことができるソフトウェアの出現により、コンピュータはより私たちの身近なものとなった。
例えば、年賀はがきの宛名を筆で書くのは一苦労であるが、コンピュータ内に住所録のデータベースを構築しておけば、プリンタによりあたかも毛筆で書いたような字の宛名を次々と印刷することができる。
また、作曲をしようとする場合、各楽器のパートをそれぞれ、電子楽器により譜面のデータを入力し、それをコンピュータに蓄積することで、一人でオーケストラの作曲ができるだけでなく、その演奏もすることが可能である。

<パーソナルコンピュータと通信ネットワーク>
パーソナルコンピュータがその単体で使われていたスタンドアロン形態が主流の時代では、キーボードから入力された数字や文字のデータを計算処理して、計算結果を画面上に出力するという使い方が主流であった。しかし、インターネット等のデータ通信網によりコンピュータどうしがデータ通信を行い、離れたところにあるデータを取得したり、そこへ送付したりすることができるようになった。このことにより、ネットワーク上にある他のコンピュータのデータをもリアルタイムで見ることができるようになり、得られる情報量も格段に多くなった。

<インターネット>
インターネットは、世界中の無数のコンピュータが接続されているコンピュータネットワークで構成されている。インターネットのサービスである電子ニュースやWWWにより、私たちは、リアルタイムに、公開されている無数の情報を取得できる。
インターネットには、情報を蓄積し発信しているサーバというコンピュータが無数に接続されている。この1つ1つのサーバには、URL(Uniform Resource Locator)という番地があり、私たちはその番地を指定することで、そのコンピュータに蓄積され、公開されているデータを見ることができる。
サーバに蓄積されているデータは日々刻々と最新のものに更新されているが、そのコンピュータに接続しなければ更新されていることを知ることはできない。このため、WWWサービスにおいては、欲しい情報が、どのサーバにあるかを知るために、検索サービスがある。検索サービスを提供しているWWWページで検索条件を入力すると、その条件に該当するWWWページを見つけ出すことができる。
WWWサービスでは、非常に低コストで、リアルタイムで世界中のデータを入手することが可能であるばかりでなく、自ら世界に対して情報を発信することもできる。
またインターネットのサービスの1つである電子メールでは、特定の人に文書だけでなく、画像や音声のデータをもリアルタイムで送付することができる。電子メールでは、宛先に複数の人のメールアドレスを記述することができるため、一度の送付で複数の人に送付することができる。
メーリングリストというサービスでは、特定の1つのメールアドレスに送付すると、そのメーリングリストに加入している全ての人に電子メールを送付することができる。これにより、メーリングリストに加入している人によるコミュニティを形成することができ、その中での意見交換を容易に行うことができる。
インターネットは、オープンなネットワークである。インターネットが現れる前の通信ネットワークは、特定のコンピュータ同士を結び、他のコンピュータからの侵入ができないクローズなネットワークであった。このため、通信ネットワークに接続されているコンピュータのデータを一般の人が見たりすることはできなかった。しかし、インターネットにより、不特定の者が容易に通信ネットワークにアクセスでき、WWWサービスなどによりインターネット上のサーバのデータを簡単に見ることができるようになった。
インターネットは、無数のコンピュータで接続されているネットワークである。接続されているコンピュータやネットワークは日々刻々と変化しており、インターネット全体を管理している者などはいない。各ネットワークやコンピュータは、それぞれプロバイダにより管理されている。プロバイダは、ユーザに対し快適なネットワーク通信環境を提供する。このため、プロバイダによりサービス内容やレベルが異なる。プロバイダは他社とのサービス競争に優位に立つために努力し、ユーザはそれを評価することで、インターネットの通信品質が保たれている。
インターネットのWWWサービスにより、私たちは、世界中で公開されている情報を見ることができるようになった。ニーズの高いWWWページのコンテンツを作成すれば、莫大な広告費をかけなくても、世界中から見られ、自分の主義主張や作品を多くの人に伝えることができるのである。

<電気製品に内蔵のマイクロコンピュータ>
製品の差別化を行い、使いやすい便利なものとするためには、より高度なサービスを提供することが求められる。このために、マイクロコンピュータは、殆どの家庭電気製品に組み込まれるようになった。例えば、CDの音楽をカセットテープにダビングする場合、ステレオ装置に内蔵されているコンピュータが自動的に何分のテープが必要であるかを自動的に計算し、またテープの長さに応じて、自動的に曲の順番を入れ替えダビングするなどができるのは、コンピュータが内蔵されているからである。
マイクロコンピュータが組み込まれた家電は、当初はパーソナルコンピュータの歴史と同じように、スタンドアロンで使われてきた。しかし、家電製品のコンピュータどうしがデータ通信できるようになり、新しい情報家電という製品が生まれた。

<社会の情報システム>
私たちの社会生活は、様々な情報システムによって支えられている。効率的に生産地と消費地を結ぶ流通システム、クレジットカードの信用を確認するための金融システム、誰がいつからいくらの年金が支給されるのかなどを管理する年金システム、など様々な社会システムにより私たちの生活は支えられている。

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<図1-1 社会を支える情報システム>

例えば、交通管制システムでは道路の混雑状況に合わせて信号の時間を調整したり、どこかで事故が発生した場合には、その情報を電光掲示板に表示している。
カーナビゲーションは、人工衛星から送られてくる電波をもとに常に自分の位置を計算している。また、交通情報提供サービスでは、電波により事故情報を送信している。この2つが融合すると、例えば電波によって送られてくる事故情報を取得 し、現在と目的地の位置と、カーナビケーションに組み込まれた地図データをもとに、適切な迂回路を内蔵コンピュータで計算して探し出し、最適な解をドライバーに知らせてることができる。このことで、ドライバーは、事故を未然に防いだり、最適なルートで走ることができる。
この他には、高速道路の料金集金システムでは、料金所で車から出ている電波により車を特定し、その車がどこからどこまでを走ってきたかを求め、その高速料金を銀行口座からの自動引き落としが行われる。これにより、料金所付近の混雑を緩和できるのである。
自動車に搭載されるコンピュータは、過去はエンジン回転数に応じた適切なバルブ等の制御が中心であった。しかし、現在では車間距離を計測してドライバーに警告を発したり、路面からの電波を読みとり、自動運行ができるシステムなどが開発されている。

交通管制システムの場合、ハードウェアは、車の交通量を測るセンサー、交通量を調整する信号機、それらの装置とコンピュータとを結ぶ通信回線、データを処理するためのコンピュータにより構成されている。
ソフトウェアは、通信制御プログラム、データ解析プログラム、信号機制御プログラムなどで構成されている。
車を止めずにスムーズな流れを作るには、複数の信号機の連携が必要となる。このため、複数の信号機を1つのコンピュータで集中制御したり、地域ブロック毎の信号機を制御しているコンピュータどうしを通信回線で接続し、コンピュータ間の連携を図る分散制御方法がある。
信号機制御プログラムなどは、安定して動作することが必要となる。コンピュータ間の連携が不十分であったり、バグによりコンピュータが停止してしまう事態が生じると信号機は誤動作し、便利であったはずのシステムが、私たちの生命を脅かすことにもなりかねないのである。
このため、公共性の高いシステムの場合、システムの信頼性を高めることは重要である。そのための技術としては、デュプレックスシステムやデュアルシステムなどのハードウェアの多重化などが行われている。


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<図1-2 交通管制システムのシステム構成図>


<ヒューマンインタフェースの高度化>
情報システムは、コンピュータをとりまく、ネットワーク技術、データベース技術を基礎としているが、音声認識技術、音声合成技術、筆跡認識技術、あいまいな情報から推論する技術などにより、私たちにとってさらに使い易いものに進化している。

<演習1-1>
音声認識、音声合成の技術は私たちの身近などのようなところで活用されているか。

<情報システムは時間や場所の制約を緩和した>
私たちは、情報システムにより、時間や空間を越えて様々なサービスを受けることができる。例えば、銀行の場合、現金の引き出しは、昔は営業時間内に銀行の窓口へ通帳を持って行かなければならなかった。しかし、現金自動支払機のあるところであれば、銀行の窓口が終了したあとでも、現金の引き出しができるようになった。
インターネットバンキングによりさらに、自宅や、携帯型のコンピュータにより電車での移動中であっても、残高照会や振込みができるようになった。ディジタルキャッシュを引き出して、買い物をすることも可能となった。
お金というのは物と交換するための象徴のなかの一つの形だと考えることができる。その意味では、たとえそれがディジタルのデータであっても現金と同じように物と交換することができれば、それはお金と同等であると言える。ディジタルキャッシュでは、暗号化された特別なディジタルデータが、現金と同じように扱われ、それで物を買うことができる。このデータは、通信回線を通じて送付することができる。紙幣や硬貨を運ぶには、物理的な手段をとらなければならないが、ディジタルキャッシュについては電子メールなどに添付して送ることも可能である。
インターネットバンキングサービスにおいては、携帯型のコンピュータをもつことは、現金自動支払機を持ち歩くのと同じであり、いつでも、どこでも、お金を引き出し、振り込みができるのである。

 

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<図1-3 銀行からお金を引き出す方法の昔と今の対比>

<情報の価値>
欲しい物を安く買うために、最も安く売っている店をあちらこちらと探すことがある。
私たちは、情報を収集することにより、より安く、より良いものを手に入れることができる。
欲しい物がその店で売られているのか、またいくらで売られているのかの情報は、その店に行かなければ分からない場合では、価格を確認するためにそこへ行くしかない。しかし、広告のチラシが手元にあり、欲しい物が他店よりも高く売られているのが分かれば、わざわざ行かなくても済む。このことは、逆に消費者に情報が伝わらないと、たとえ他店よりも安くても消費者は購入できないことを意味している。どの店が最も安いかという情報を容易に入手できるようになると、店の情報発信の格差は店の利益に直接影響を与える。また、消費者にとっても、情報収集は、より豊かな生活をする上で必要不可欠になってきている。

<プッシュ型とプル型>
広告のチラシは、店の情報発信の手段の一つであるが、消費者の意志に無関係に情報が消費者の手元に送られてくる。これを、プッシュ型メディアという。
インターネットのWWWサービスは、目的とするWWWページを見なければ、そのWWWページの情報を得ることはできないため、プル型メディアということができる。しかし、インターネットでもプッシュ型のサービスがある。自分に興味のあるニュースの自動配信サービスなどがその一例である。新聞の折り込み広告では地域を限定することができたとしても、新聞の読者の興味に応じて配り分けることはできない。しかし、インターネットでのニュースの自動配信サービスでは、予めそのサービスを受けるにあたってアンケートに答えると、そのアンケートに基づき興味があるであろうと思われる内容のみのが配信される。あるカテゴリに分類される情報が入手できたとしても、送られてくる個々のニュースの内容について、自分で選択して見た訳ではないため、プッシュ型メディアと言うことができる。

<演習1-2>
プッシュ型で情報を取得する場合とそうでない場合(WWWページを検索するなど)とでは、どのような特徴の差違があるか。情報の発信する側の差違、情報を受け取る側の差違、情報の内容による差違をあげなさい。

<主体的に情報を得る>
過去は、情報を得る手段は、新聞、テレビ、書籍などに限られていた。すなわち、限られた情報源の中から、自分にほしいものを選択することが主流だった。しかし、WWWサービスにより、自分のほしいものが存在するかどうかを問いかけ、見つけだすことができるようになった。私たちは、WWWサービスにより、より情報を主体的に得るための方法を手にしたといえる。
情報社会の以前は、情報を得る手段も限られ、発信されている情報の量も少なかった。しかし、情報社会では情報の入手により、より良いものを入手することが可能になった。とくに情報社会では、発信される情報の量も増大したが、消費者が容易に必要な情報を入手することが可能になった。このため、情報社会では、情報の入手方法が、従来のプッシュ型メディアによる方法と比較し、WWWサービスなどのように主体的に情報を入手する方法の割合が大きいという特徴がある。
情報社会では、欲しい情報を身近に入手できるようになったために、より自分の個性に合った物を選ぶことができる。インターネットによるショッピングでは、商社が輸入していない海外の製品でも24時間いつでも購入することができる。このため情報社会では、自分は何が欲しいのかを自分で考えて知ること、がより求められる。

<消費者の行動の変化>
企業が、情報を公開するようになり、消費者は自主的に欲しい情報をインターネットのWWWサービスなどを通じて簡単に入手できるようになった。
消費者が自主的に商品の情報を集め、購入するという消費スタイルの変化により、企業も売上げを伸ばすために、ますます情報公開するようになり、その相乗効果により情報社会が急速に発展した。

店はインターネットのWWWページに広告を出し、消費者がその情報を検索して購入する、という消費形態は、産業のあり方を変え、新しい産業を生み出すことにもなった。
消費者は、まず情報を集めてから行動するようになることで、情報を発信していないところは、無視されてしまうようになった。
またインターネットにより私たちの行動範囲をはるかに越えた場所の情報を簡単に入手できるようになったことで、様々な産業の変化と新しい産業の誕生があった。


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<図1-4 インターネットショッピングの例>

<お店に求められる変革>
例えば、インターネットのWWWページに広告を出すことにより、店の購入者は、近くに住む人々から、全国あるいは全世界の人々に拡大した。このため、店の競合相手は、近くの他店ではなく、全国あるいは全世界の他店となった。店は広告のチラシを印刷する費用を節約できるため、さらに売値を安くできるようになった。
全国に対する通信販売がその店の主な販売形態となれば、店舗や販売定員を少なくすることができる。店の売上げを伸ばすためには、より多くの販売定員を配置することではなく、情報発信をすることであり、その場合、他店に対してそのお店では何が特徴なのかのアイデンティティがより求められたり、対象とする消費者が欲しい商品を品揃えできるかが重要となる。

<演習1-3>
インターネットには、どのような商店があるか探しなさい。さらに地域の特産物の売っている店のWWWページを見つけなさい。

<情報検索の技術>
情報社会により、多量の情報の中から必要な情報を見つけだす技術が重要となる。
情報の拡大は、私たちの選択肢を広げ、個性を伸ばすことができるようになる。
しかし何よりも重要なのは、情報を主体的に得ること、そしてそれには自己責任が伴うことである。また、情報を正しく理解し判断する、ことも重要となる。

<情報発信での注意>
コンピュータが身近になり、インターネットの電子メールサービス、電子ニュースサービス、WWWページなどを通して情報を簡単に発信することができる。この場合、その情報が他に与える影響を十分に考える必要がある。
他者の著作物を無断で流用したりすることは著作権法に反する。また、倫理的に反しない情報発信を行わなければならない。
インターネットの普及により、私たちは従来よりも簡単に広く、すばやく世界に対して情報を発信できるようになったが、その分、自分の発した情報に対する責任が重くなることも忘れてはならない。
例えば、友人との会話や私信で人の噂話をするようなつもりで自分のWWWページに記事をのせたため、事件になった例もある。見方を変えれば、私たちは他人のWWWページに書かれていたこの種の記事を読むときにも鵜呑みしないという「情報選択能力」を付けておくことが重要である。
WWWページにより、自分の考えや思いを自由に表現することが可能になった。しかし、その自由とは、何でも行って良い、ということではない。不当に他者のプライバシーを侵害したり、行動に制限を与えるような発言は「表現の自由」ではないのある。

<演習1-4>
情報社会において、私たちの主体性や自己責任が重要となる、とはどういうことか。


<情報弱者>
私たちの生活のなかで、コンピュータを身近に使うことで、インターネットなどから情報を得たり、データベースなどを用いて情報を適切に整理することができる。例えば、買い物のデータベースを作成しておけば、どこの店では何が安いのかの傾向を分析することもできる。このように、情報を得て、それを適切に分析することは、私たちの生活をより豊かにする。このためには、コンピュータの操作が不可欠となる。
このことは、コンピュータを操作できない人はその豊かさを享受することができない、ということを言っている。このため情報を取得できる人とそうでない人との間に情報格差が生まれ、それによる豊かさの格差が生じることとなる。
私たちは、情報化を進めながら、一方で、コンピュータの操作が苦手であるお年寄りや障害者などの情報弱者に優しく、情報弱者でも生活に必要な情報を容易に得られるような社会を築く必要がある。



第2節 企業における情報処理技術

<企業においての情報の価値>
企業において他社との競争で優位になるためには、情報は不可欠である。
商品に関する情報が少なかった時代では、少々デザインが気に入らなくても、それしか手に入れられなかった。このため、消費者は自分の嗜好にあった商品を探し出すことは大変であった。せっかく自分の好みのデザインや機能を持った商品があっても、その存在を知らないため手に入れられない、ということがしばしばあった。
しかしインターネットのWWWサービスで、検索エンジンをうまく使えば、消費者は自宅に居ながらにして豊富な情報が得られ、自分の嗜好にあった商品を容易に探し出すことができる。すなわち、企業においては、検索されやすいページの作成が重要となる。
また、WWWページには、発信と同時に見ている人からアンケートを取ったりメールをもらえるというように、双方向通信機能があるので、従来より容易に消費者のニーズを得ることが可能である。このような機能をうまく活用し、消費者の求める嗜好を的確につかみ、それを商品企画に生かすことがこれからの企業にはますます重要視されるようになっている。

<演習2-1>
なぜ企業において情報の重要性が増すことになったのか理由をのべよ。

<小売り業におけるコンピュータの利用>
コンビニエンスストアでは、私たちは、生活用品などの購入だけでなく、チケットの購入や、公共料金の支払いまでができるようになった。
店の端末は、本社のコンピュータと通信回線で接続され、店内の端末の操作により、チケットの情報が送受信されて購入できるのである。
コンビニエンスストアでは店舗とコンピュータセンターとを通信ネットワークで結ぶことにより、このように新しいサービスの提供が可能となった。
コンビニエンスストアは、小売店でもあり、チケットセンターでもあり、銀行でもあるが、情報処理技術により、従来の業種を越えた新しい産業が生じることとなった。

 

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<図2-1 コンビニと本社コンピュータとチケットセンターとのやりとり概念図>

<POSシステム>
商品に付けられているバーコードにより、商品の価格をレジで入力する手間を省くことができるようになった。バーコードには、商品の価格が表記されているのではなく、商品コード(国コードと企業コードと企業内の商品コード)が表記されている。
レジでバーコードを入力すると、コンピュータにより、商品コードと価格との対応データベースから商品の価格が検索され、レシートにその価格が印字されるのである。
商品の値段を変更する場合、従来では1つ1つの商品に付けられた値札を付け直す必要があった。しかし、バーコードにより、データベースのその商品に対応する価格を変更するだけで、全ての商品の価格を変更することができるようになった。

さらに、レジで入力された情報は、コンピュータのデータベースに蓄積されるが、そのデータは通信ネットワークを用いてコンピュータセンターに送付される。このため、どの店ではどの商品がいくつ売れたかの販売管理や発注管理や在庫管理が容易にできるのである。
また、どこで何が何時にどの商品と一緒に売れたかの情報をもとに、顧客のニーズを分析することもできるようになった。このデータをもとに、商品戦略を立て、売上げを伸ばしているのである。このようなシステムをPOSシステムという。


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<図2-2 POSシステムの例>

<製造業におけるコンピュータの利用>
製造業においては、コンピュータの画面上で製品を設計(CADという)し、そのデータをもとにコンピュータ制御の機械が自動的に動く(CAMという)ということが行われている。また設計した物が、強度上問題がないかなどを確認するために、コンピュータによるシミュレーションが行われている。
自動車の強度を測るのに、実物を作成しなくてもコンピュータ上で確認することができるようになった。これにより、設計日数と設計費用の削減ができるだけでなく、様々な場合を想定した試験を簡単にできるようになった。
巨大建築の設計では、コンピュータを用いて、その建造物の強度や地震による影響、ビル風による近隣への影響、ビルの影による近隣への日照時間の影響などをビルを建てる前に正確に予測することができる。
作成された図面のデータについては、標準的なデータフォーマットが定められ、電子符号化され、電子メールにより海外の工場や関連企業への転送も簡単にできるようになった。

 

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<図2-3 CADCAMシステムの例>

<企業情報システムでのコンピュータの利用>
企業内の情報化には、企業内でやりとりされるドキュメントの電子化がある。出退勤管理、購買管理などがペーパーレス化され、電子決済が行われている。
また関連する企業間の取引の決裁を電子商取引化することで、現金の移動が少なくなり、効率的な企業経営が行われている。

企業内には、経理システム、人事システム、稼働管理システム、プロジェクト管理システム、顧客情報システム、販売管理システム、在庫管理システム、情報共有のためのシステム、などがある。それらのシステムは社内コンピュータネットワーク(LAN Local Area Network)に接続され、イントラネットを構成している。また、各システム毎のデータベースは連携が行われている。
例えば、市場と工場とを結ぶ業務のプロセスを見直し、そこに情報システムを導入することで、タイムリーに市場のニーズに合った製品を企画し生産するとができるようになった。このことにより、品揃えが充実し、見切りロスが減少し、不良在庫を減らす結果となった。個々の顧客の取引履歴を蓄積した顧客データベースは、営業力を高め、顧客満足度を高めるために不可欠となっている。この場合、販売管理システムと顧客管理システムの連携が不可欠である。このように、ネットワーク上に複数のシステムが協調して動いているシステムを分散システムという。また各システムの目的別にコンピュータが配置されている分散システムの形態を機能分散という。分散形態には、他に負荷分散がある。負荷分散とは、同じプログラムを複数台のコンピュータで動かし、複数の入力処理を各コンピュータに振り分けることで1台あたりのコンピュータの負荷を軽減する方法である。
なお、経理システムや人事システムなどを1台のコンピュータで処理する方法を集中処理システムという。

 

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<図2-4 企業情報システムの例>

<企業における情報発信>
私たちは、とくに高額な商品を購入するときに、競合する商品とのデータを比較検討して、自分の嗜好にあった商品を選ぶ。このため、商品に関する情報発信は、商品の価値を高めている。
情報を付加することにより、商品の価値を高めることが可能なのである。
例えば、食品売場では様々な食材が売られている。ある商店では、生鮮食料品売場に料理のレシピを置くようにした。消費者は、そのレシピを見ることで、どの食材をどれだけ購入すればよいのかを知ることができるようになった。
この場合、その商店では、生鮮食料品に情報を付加することにより、商品の価値を高めることができ、売上げを伸ばすことができたのである。

<演習2-2>
商品やサービスに情報を付加することで、価値を高めることのできた例をあげなさい。

<企業の情報公開>
企業経営にとって、情報公開は、企業の独自性が何であるのかの追求でもある。他社に負けない技術やサービスがどこにあるのかを知ることでもある。

<経営意志決定でのコンピュータの利用>
  また、情報化は、経営の効率化とスピード化を促進する。経営者は必要な情報を素早く得ることで、的確な意志決定ができるようになる。
  しかし、情報を正しく読み、その結果、過去の経験にもとづき創造力を発揮して、どのような戦略を立てたらよいのかを意志決定することは、コンピュータにはできない。

<演習2-3>
情報公開は、企業にとって、どのようなメリットとデメリットがあるか、それぞれ5つ以上あげなさい。

<情報化の影の部分>
製造工場では、工業用ロボットがコンピュータにより制御されている。また、電車の運行管理などにコンピュータが使用されている。
ところで、机に向かってコンピュータのプログラムを作成する仕事は、危険を伴う仕事ではないと思われている。しかし、そのプログラムの誤りにより、機械が誤動作し、死傷者を生じたような場合、プログラマが傷害致死の罪に問われることもある。
年金や銀行の預金を管理しているコンピュータのデータに誤りや不正なプログラムが入っていたら、本来あるべき預金がなくなる、ということもあり得るのである。この場合、不正なプログラムを作成した者は窃盗罪に問われることになる。
このため、大規模なシステム構築においては、不正なプログラムが混入しないようにシステムを開発するモラルと、それをチェックできる体制や仕組みが重要となる。
インターネットの普及により、不特定多数の人が容易にコンピュータへアクセスできるようになった。このため、不正にコンピュータに侵入するハッカーと言われる人も現れた。企業や国の機関などのコンピュータへ不正に侵入し、その機密データを入手することも犯罪である。
ウィルスというのは、コンピュータのファイルを破壊したりするコンピュータプログラムである。ウィルスは、それに感染したファイルを受け取ることにより感染する。感染した後に、他人にファイルを渡すと、そのファイルはウィルスに感染しているために指数級数的にウィルスの感染が広まることになる。あるウィルスは、特定の日時になると音楽を奏でるといったものもある。ウィルスに感染しないようにするためには、見覚えのないところから送られてきた電子メールを開かないようにする、記憶媒体でファイルを受け取るときにはその媒体に対してウィルスチェックを行ったあとにファイルの転送を行う、定期的にウィルスチェックを行う、などがある。

<情報システムの評価>
情報システムは、機能性、信頼性、使用性、効率性、保守性、移植性、保全性、安全性により総合的に評価される。
このうち、信頼性を高める技術としては、ハードウェアの多重化やソフトウェアによる対処がある。
システムに故障が生じた場合、性能を低下しても運転を続行することをフェイルソフトといい、性能を低下させないで処理を続行できることをフェイルセーフという。また、障害に対し常にシステムを稼働状態に維持しようとすることをフォールトトレラントという。
ソフトウェアの信頼性を高めるためには、欠陥や誤りを開発プロセスのなかで入りこまないようにする技術と、欠陥や誤りの影響を最小限にとどめるための技術、そしてその欠陥を見つけるための技術がある。
また、情報システムの場合、プログラムが正常に動くだけでなく、性能が問われる。このため、システムの設計段階から、性能を考慮した設計を行うことも必要である。
情報システムの信頼性を高めるために、例えば、同一仕様に基づいて複数のプログラムを作成し、同じ入力データに対し、各プログラムが同じ出力結果となるかを確認する方法などが行われている。
人間がデータの入力を行う場合、誤った値を入力してしまうこともある。これに対し、チェックディジットを付加し、ソフトウェアにより誤ったデータが入力されたかどうかを確認することも信頼性を高める一つの方法である。

<演習2-4>
流通業、金融業、医療、エネルギー、建築、などの分野では、どのような情報化が行われているか例をあげよ。また、その情報システムは、どのような特徴があり、どのような技術が使われているか調べなさい。



第3節 明日の情報社会

自宅のコンピュータが会社のコンピュータと通信回線により高速なデータ通信が行われるようになり、テレビ会議システムを用いて会議をし、電子メールのやりとりを通して上司や同僚とのコミュニケーションをはかるようになった。このため、自宅でも仕事が可能になり、在宅勤務やSOHOといった勤務形態が可能となった。情報化により、仕事のやり方や場所などをも変えることとなった。

 

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<図3-1 在宅勤務の例。自宅と会社のコンピュータの接続例>

私たちの身近な家電製品にはコンピュータが組み込まれているが、それらの家電製品どうしが高度化し、相互に通信しあうことで、私たちの生活も新しい生活スタイルが生じてくるだろう。
例えば、電池で動くおもちゃは進化し、コンピュータが組み込まれることにより、人間の声を理解し、その動作をすることができる電子ペットが作られている。
私たちのしつけ方により、電子ペットの性格が形作られる。電池で動く、電子ペットは、大量生産により作られるが、コンピュータ技術により、持ち主の性格などに左右され、電子ペットが個性をもつことができるようになるかも知れない。


情報社会では、時間や場所を越えてコミュニケーションできるだけでなく、インターネットのチャットなどでは、見ず知らずの人同士で対話することができる。
情報社会の実現により、自分と同じ趣味や思想をもった人たちを容易に見つけることができるようになった。このため、仮想的なコミュニティを簡単に構成することができるようになった。
将来の社会では、バーチャルな世界、バーチャルなコミュニティがますます広がる増えることだろう。例えば、バーチャル学校、バーチャル親子、バーチャル恋人などである。

<演習3-1>
身近にある仮想的なコミュニティには、どのようなものがあるか。また、インターネットにはどのようなコミュニティが存在するか調べなさい。


コンピュータとセンサーの進歩により、よりリアルな仮想現実を体験できるようになる。
コンピュータによるシミュレーションは、飛行機のパイロットの訓練に使われている。コックピットの窓にはコンピュータのディスプレイがはめ込まれ、パイロットの操縦により、そのディスプレイの表示が刻々と変わる装置により、実際の飛行機に乗らずに、飛行を体験することができるのである。
頭に仮想的な視野を映し出すコンピュータの画面の表示装置を取り付け、体にセンサーを取り付けることによって、体の動きをコンピュータに入力することができる。比較的簡単な装置で、仮想現実を体験できるようになると、色々な利用が考えられる。


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<図3-2 ヘッドマウントディスプレイを取り付けて仮想現実を体験>

例えば、バーチャル旅行も可能となる。自宅にいるだけで、世界中を旅行することができるのである。旅行中にそのディスプレイに現れるコンピュータで作られた人物と会話を楽しむことも可能になるだろう。手足が不自由な人も旅行を楽しむこともできるだろうし、遠隔地にいる人どうしが、仮想的に一緒に旅行することも可能となるだろう。
また、何もいないプールの中でスキューバダイビングをしても、目の前のディスプレイには、コンピュータで合成された様々な熱帯の魚が表示され、あたかも、南の海のダイビングを楽しむようなこともできるようになる。ダイビング中に手元のスイッチを押せば、自在に別のダイビングスポットや季節や深さを変更することができるようになるだろう。
バーチャルスポーツも実現できるようになる。例えば、ゴルフでは、数人でパーティを構成し一緒にコースをまわる。しかし、バーチャルゴルフならば、遠隔地にいる人どうしでパーティを組み、時間も夜に実施することも可能である。
他に、バーチャル卓球、バーチャルバドミントンなどが可能になるかも知れない。
バーチャル商店、バーチャル遊園地、バーチャルデートなどが可能となる。

通信回線により病院どうしを結べば、遠隔地の病院から患者の手術をリモートで手術をすることも可能である。すでにそのようなことは行われている。

<演習3-2>
仮想現実により、どのようなことが可能になるか。数人でブレインストーミングをしてなるべく多くのアイディアを出しなさい。また、それらが仮に実現した場合、私たちの生活はどのような変化をもたらすか。またそれにより、産業自体がどのように変化するか。

 

<演習3-3>
仮想現実の実現により、ハンディキャップを持ってる障害者、老人などの生活はどのようになるか。


コンピュータは、万能ではない。コンピュータは、私たちがプログラムした動作に従って動くため、プログラムされていない動作をすることはない。すなわち、コンピュータは創造力をもつことはできない。しかし、私たちの創造力を刺激し、私たちの創造力を高める補助をすることは可能である。
将来、私たちは、コンピュータとの対話を通じて、新しい原理の発見や発明をすることができるようになるだろう。実際に、4色問題をコンピュータが解いている。また、チェスの大会では、コンピュータが世界チャンピオンに勝利している。

将来、コンピュータは個性をもち、人格(?)をもつことになるかも知れない。
私たちの個性、思想、性格がコンピュータにデータ入力できれば、自分とそっくりの考え方をするコンピュータが実現できる時代がくるかも知れない。
もし実現できたら、私にそっくりのコンピュータと対談するときに、その対談した人は、まるで私と対談しているようだと感じることだろう。
年をとって、私が死んだとしても、周囲の人は、私とそっくりのコンピュータを通じて私が既にいないことを意識しないかもしれない。コンピュータによって、私は周囲に対して生きている存在となったら、私は、本当に死亡したといえるのだろうか?

将来の情報社会を私たちが築くためには、コンピュータや情報処理技術を恐れるのではなく、それらについて学び、正しい認識を持つことが必要である。システムを作るときに、それが技術的に可能であるかどうかで判断するだけでなく、それが私たちの生活や社会や環境に与える影響についても考慮する必要がある。

<演習3-4>
コンピュータが人間に近づくためには、どのような技術が必要になるだろうか。その技術は実現かのうなのか、考察しなさい。

 

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<図3-3 コンピュータ(ロボット)と人間が対話をしている空想の世界>


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