日時:1989年 5月 11日(木)13:30〜17:00
会場:日本情報処理開発協会 情報教育研究所 第5会議室
井野敏夫(元英知大)
発表取り消し
松原勇(金沢経済大学),高尾テルノ(富山大学)
新人類という言葉はすでに古いと言われるくらい激しくかわる若者の性格に加えて,猫の目のように変わる入試制度により(特に,現在のような情報化社会にあっては押し寄せてくる情報の渦の中で),新入生の意識構造が大きく変化していると考えられる.そこで,著者らの行ってきた一地方国立大学でのアンケートの結果のうち昭和 63 年度入学者を対象に行ったものの結果を中心に考察し,さらに志望動機についてここ数年の変化についても考察してみた.その結果,学生は入試制度の変化の中で溢れる情報の波に揺り動かされていることがうかがわれた.
古関政(群馬情報電子専門学校)
教育現場の問題点を学校心理学・教科心理学の視点から考察し,改善の方策を論じた.次に授業の実践で成功している例をあげ,名人と言われる教育実践家の意見を集約した.その要点は「だれがやっても成功する教育技術というものは存在しない」というところにある.一方,効果的な授業を実現する狙いで,コンピュータの利用が進められている.すでに普及が試みられている伝統的 CAI については詳細に問題点を論評した.しかし知的 CAI については今後の期待をのべるにとどめた.なお最近認知科学の発展が目覚ましく,教育への応用も進んでいるので,その視点から検討すべき事項を概説した.最後に,コンピュータによる授業支援システムについて考慮されるべき条件をあげた.
小鶴康浩,大深悦子(日本IBM 東京基礎研究所),花村尚子(筑波大学)
日本語学習者のための待遇表現の使い分けに関する学習を支援するシステムを,日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所と筑波大学との共同研究として構築中である.日本語を学習している外国人にとって敬語法などの待遇表現の使い分けは非常に難しい.尊敬語や謙譲語,丁寧語の文法的な知識は持っていても,実際の場面に応じた使い分けは困難を伴う.これは学習者の母国と日本との社会構造の違いに起因している.このシステムでは,学習者が遭遇するであろう社会的場面や対話の相手に応じた表現の選択を示し,学習上の注意点などを与えることによって待遇表現の効果的学習を行うことができる.筑波大学留学生教育センターでの今秋からの運用を予定している.
福田章夫,徳田尚之(宇都宮大学)
修復理論で生成された代数的演算即ち減算での 36 個のバグが階層構造を持つことを利用して,我々は Gordon & Shortliffe のアルゴリズムを使うと Dempster-Shafer 理論による推論計算が非常に効率良く行われることを示した.実際,ある生徒が持っているバグがどのバグになるか推定するのにバグの数が n 個あるとすると,従来の Dempster-Shafer 理論では,2n の計算量が必要であるし, Gordon & Shortliffe のアルゴリズムではこれが O(n3) に減らせ,我々の方法ではこれが O(n3/2) にまで減らす可能性があることを示した.
日時:1989年 7月 13日(木)13:00〜16:30
会場:機械振興会館 地下3階 2号室
小山田了三(山梨学院大学商学部経営情報学科),本村猛能(東京都世田谷区立玉川中学校)
筆者らは,現在学校教育が抱えている諸問題を解決し,生徒の学力向上のために役立つ,より客観的に教師の教授法についてのデータを得るために,生徒の知能・環境など様々な要因を考慮した授業の評価票の作成,すなわち教師に対する生徒の授業評価を中心とする授業分析法を勘案することにした.またこの分析法によって,教師と生徒の一般的・情意的信頼と教師の教科指導力が,生徒の学習理解度に強く関わっていることを示した.
御牧義(電気通信大学 電子情報学科)
文部省が情報処理学会に委託した「大学等における情報処理教育の改善のための調査研究」の昭和 63 年度の報告書の内容を紹介する.主な点を挙げると,第一は,情報専門学科の現状,問題点の分析で,種々の問題があるが学科内に専門家が少ないことが一番大きな問題であるようである.第二は,専門学科のカリキュラムで,ACM Curriculum '78 には改訂を要する部分もあるが,わが国の専門学科の多くがこのレベルに達していないと言うのが委員会メンバーの現状認識である.第三は,一般情報処理教育で,パーソナルコンピュータの普及は,教育をやり易くしているが,教員,ソフトウェア,教育システム等に多くの問題を抱えていることが指摘された.
司会:吉村啓(慶應義塾大学教職課程センター)
寺田文行(早稲田大学理工学部)
細井勉(東京理科大学理工学部)
中西正和(慶應義塾大学理工学部)
筧捷彦(早稲田大学情報科学教育センター)
中学校では 1993 年度,高校では 94 年度より実施される新しい中学・高校の学習指導要領,特に数学でのコンピュータに関連する事柄について,数学教育と情報処理の研究者とが相互に意見を交換し,理解を深めることを目的としてこのパネル討論を計画した.高校数学では,数学Aで「計算とコンピュータ」,数学Bで「算法とコンピュータ」,数学Cでは応用数理の観点から「コンピュータを活用していろいろな数学の内容を学習する」とある.また,これ以外の面でも広くコンピュータが教育の場で使われることが望まれている.これらの円滑な実施に当たり,ハード・ソフト・指導法など色々な面で情報処理の研究者の理解と協力が必要であり,また希望があると考え,これらについての研究を深める場としたい.
「高校数学の新カリキュラムとコンピュータ」 寺田文行
「中学校数学科とコンピュータ」 細井勉
「中・高校数学教育におけるコンピュータ利用」中西正和
「鍵となるソフトウェア」 筧捷彦
日時:1989年 9月 14日(木) 13:00〜17:00
会場:豊橋技術科学大学 語学センター 大講義室
河村一樹(日本電子専門学校)
本年度に新設したシニア情報処理科におけるシステムエンジニア教育のあり方について報告する.今までのプログラマ教育から脱却し,新しい着想のもとにシステムエンジニア教育へと転換をはかったのが,本学科である.システムエンジニアの中でも,アプリケーション分野を担当とする A-SE を想定し,今までにない技術者教育の試みを始めている.その試みとしては,コンピュータのテクニカルスキルだけでなく,ポリティカルスキルにも重点をおくこと,実務オリエンテッドな演習・実習環境の設置―System Factory など―をはかることがあげられる.専門学校という特色を生かしたフレキシブルな教育体制による SE 教育のあり方について提案する.
松田浩平(豊橋短期大学 秘書科)
本稿は,女子短期大学生のコンピュータに対する態度の発達と変容について論じている.個人が態度を形成していく過程は,一つの社会化とみなすことができる.それゆえ,社会化の問題についても触れ,個人のコンピュータに対する態度の形成は,個人のコンピュータに対する行動様式の社会化の過程であると考察した.また本稿では,コンピュータに対する態度の測定のための質問紙と因子分析的な技法について提案した.以上にもとづき,半期スパンのコンピュータに関する初歩的な演習授業の終了後の態度の変化について報告した.その結果によれば,技術的な訓練のみではコンピュータに対する態度は変化しないものであった.このことは,コンピュータに対する態度が変化する要因として教育環境的因子の重要性が示唆されるものであった.
河合和久,山田泰史,大岩元(豊橋技術科学大学 情報工学系)
我々は,本学の英語,独語教官の協力のもと,多種の語学教育のための CAI システム:L-TUTOR の開発を進めている.語学教育のための CAI システム導入においては,計算機科学者と語学教育者との有効なコミュニケーションが欠かせない.また,システムづくりにおいて,計算機科学者が最も重視しなければならないのは,語学教育者の要求に対する即応性である.語学教育者の要求する教育法を実現する作業が効率的に行なえるよう,L-TUTOR では,システムの汎用的な枠組みを用意している.さらに,語学教育者それぞれの教育法に適したオーサリング・システムを,効率的に作成するために,市販エディタを拡張してオーサリング・システムを作成する方法を採用している.
河合和久,吉村弓子,Randall S. Cummings,大岩元(豊橋技術科学大学)
TUT コードは,定められた 2〜3 打鍵(漢字コード)で,漢字が直接入力できる日本語入力方式の一つである.漢字コードによる漢字入力の思考プロセスは,漢字の手書き動作のそれと変わらない.しかも,入力並びに習得に要する時間は,手書きの場合のともに数分の一である.こうした漢字コードの特質から,我々は TUT コードを用いた日本語教育 CAI:J-TUTOR を提案してきた.本稿では,この J-TUTOR による漢字教育のための教材について述べる.本教材での漢字の学習順序は,新聞データに基づく一般的な使用頻度を基に定めている.個々の漢字の教材は,通常の漢字教育と同様に,新しい漢字の提示,読みと意味の提示,漢字の打鍵練習,単語の打鍵練習,例文の打鍵練習から構成される.
今栄国晴(愛知教育大学付属教育工学センター)
学校においてコンピュータが活用されるようになるには,生徒の中のコンピュータ無関心群と教員の心理的抵抗への適切な対応が必要である.そのためには,まず,コンピュータ使用が有用であることが納得されねばならない.CAI は過去の多くの実践から,有用さを示す多くのデータがあるから,個別の評価研究の他に,メタ分析を使用した評価研究を紹介して,CAI が特に低学力者の学力回復に有効であることを示した.また,わが国の児童生徒と教員のコンピュータとの関わり方とコンピュータへの態度を明らかにして,コンピュータに対する無関心群が,学校生活不適応者と重複することを示した.これらのことから,生徒の中の無関心群に興味を持たせ,多くの教員の抵抗を和らげるためには,CAI などによって,低学力者の問題を解決することが手始めであることが議論された.
日時:1989年 11月 9日(木) 13:00〜17:00
会場:電気通信大学 図書館 AV ホール
大里有生(長岡技術科学大学 計画・経営系),御牧義(電気通信大学 電子情報学科),乾侑(長岡技術科学大学 計画・経営系)
2000年における我が国の情報技術者に対する需要予測モデル策定上の方向づけについて述べる.第一に,ソフトウェア技術者の需要予測に対する通産省方式を検討し,西暦年を決定因子としたソフトウェア需要の GDP 比率を予測する方式には無理があることを示す.また,ソフトウェア技術者の生産性を支配的因子とした予測方式は,生産性向上の将来動向が不確実であるために問題がある.つぎに,ソフトウェア技術者の需要予測に当たっては,GNP のようなマクロ的因子を決定変数とした線形回帰型モデルでもある程度は予測可能であることを指摘する.最後に,本プロジェクトが対象としている情報技術者の場合にも GNP を決定因子とした線形回帰型モデルが適用可能であることを示唆する.
一松信(東京電機大学 理工学部 情報科学科)
大学段階での数学教育にマイコンを活用する試みは数多くあるが,成果は今一つという現状である.ここではオランダの Lauwerier 教授らの試みの一端を紹介して,参考に資する.同氏の著書は,幾何学・解析学・モデル化(主に微分方程式)の 3 冊が既に刊行されているが,最後の本を中心に紹介する.
岡田幸子,菅野文友(東京理科大学 工学部 経営工学科)
本学工学部経営工学科におけるコンピュータ教育のうち,2 年次で履修する FORTRAN 言語による電子計算機演習IIの成績評価を対象とし,それに影響を与える諸因子の関連性について,解析した.諸因子としては,1 年次の一般教養科目に注目した.それらの成績評価に電子計算機演習IIの成績評価を加えた教育データを適用した.各教科間の相互関係を明瞭に把握するために,主成分分析で解析を試み,データの解釈を行なった.結果として,「総合能力」因子,「語学適正能力−化学的能力」因子,「数式解析能力−記号操作能力」因子の 3 つの能力因子を得た.また,これらの抽出した 3 つの能力因子それぞれについて,電算機演習IIの成績評価の優劣による差違が見られるかどうかを,分散分析法で解析した.
日時:1990年 2月 15日(木)13:00〜17:00
会場:機械振興会館 地下 3階 2号室
特集:企業人を対象とした SE 教育のあり方
関口博敏(日本ビジネスオートメーション 人材開発部)
人材こそ最大の財産といわれるソフトウェアハウスの中で,いつもネックとなっていたのが SE の早期育成である.SE の育成については,従来はともすると職人の育成にみられる徒弟制度の中で,育成が計られてきた.これをより体系的に,そしてより理論的な側面からのアプローチが計れないものかと目指したのが,我々の実施してきた“SE 教育”である.我々はこの 3 年間の実績の上になお一層充実した内容にすべく努力中である.
橋山真人(花王 システム工科学校)
現在,高度情報処理技術者の育成が叫ばれており,社会全般,特に企業でその確保と育成が重要課題になっている.その背景となるのは,いうまでもなく高度情報化社会の到来である.1990 年から 2000 年にかけて先進諸国においてコンピュータを中心とするニューメディアを駆使した情報ネットワークの構築が進み,企業はもとより社会全体が情報化するとみられる.そうした状況は当然,多くの情報処理技術者を必要とするが,これを鑑み,弊社ではソフト開発要員だけでなく,広い意味でのコンピュータ技術者を自社で養成するという方針を打ち出した.
綿田弘(住友金属工業 システムエンジニアリング事業本部 情報システム部)
適用業務システムを開発するシステムズ・エンジニア(SE)を短期間で育成する効率的な教育システム「Hi-SE教育」について紹介する.この教育システムの特長は以下の 3 点である.
1. 長年の経験から整備・体系化したシステム開発手順を利用すること
2. 模擬 OJT と名ずけた討議形式の実践的な演習が教育期間の大半を占めること
3. 教育成果の確認を技能面と資質面にわけて実施していること
この教育システムは,住友金属工業(株)の職種転換教育で試み,効果が高いことを確認した.本論文では,職種転換教育を例示しながら内容を紹介する.
江村潤朗(日本情報処理開発協会 中央情報教育研究所)
我が国では,情報処理技術者育成のための各種の施策を展開している.その最大の理由は,情報処理技術者の大幅な不足が予測されているからである.中でも SE の不足が極めて深刻化している.そのために,平成元年度に 2 つの新しい施策が追加された.「地域企業内研修リーダー養成」事業と「地域ソフトウェア・センター」事業である.「地域企業内研修リーダー養成」事業は,通産省の人材育成施策の一環として,SE を養成することのできる企業内研修リーダーを養成するための研修コースの全国各地での実施である.一方,「地域ソフトウェア・センター」事業の主要な内容の 1 つが,3 ヶ月間の SE 研修用コースを実施することである.本稿では,「地域企業内研修リーダー養成」コースの狙いと内容,および「地域ソフトウェア・センター」で実施する SE 研修用コースの標準カリキュラムの概要について説明する.