日時:1991年 4月 26日(金)9:30〜17:00,27日(土)9:30〜12:25
会場:機械振興会館 6階 65号室
特集:知的 CAI
共催:電子情報通信学会(教育工学研究会,人工知能と知識処理研究会),
日本教育工学会,
CAI学会
波多野和彦(埼玉大学),坂元昂(東京工業大学)
一般情報処理教育の入門段階における初学者を対象とした環境型 ITS の構築を目指している.本システムは,パーソナルコンピュータ 2台をキーボード・エミュレーション装置により直列に接続し,実際のアプリケーションソフトウェアを起動しながら学習支援を行う.従来の ITS と異なり,明確な学習目標を組み込まないため学習者の操作に対する適否の判断が困難である.そこで事例ベースシステムの考え方を適用し,システムに学習者の行動パターン(行動の目標)を蓄積し,利用する方法を提案する.
田村武志(国際電信電話),渋井二三男(城西大・女子短大),佐藤文博(中央情報教育研究所)
良質のコースウェアを開発するには,SME (Subject Matter Expert) が教育の知識を持つか,あるいは支援を受けて直接コースウェアを作成することが望ましい.後者の場合には,コースウェア作成支援エキスパートシステムが必要である.我々は,いわゆる教え方のうまいといわれるベテラン教師の教授法に着目しそれを分析し,モジュール化して知識ベース化することを考えた.ここでは,モジュールの一つとなる『学習対象のイメージ化』『基本モデルの構築』『知識と操作』について述べる.
府川和生,伊丹誠,伊藤紘二(東京理科大学)
本稿では,水準の異なる学習者が,Prolog によるプログラミングを独習するための事例ベースの学習支援システムの構築について報告する.今回実現したシステムは,その基本となる部分である.このシステムでは,Prolog についての一応の知識は得ていることを前提として,プログラミング技術を独習させるためにプログラム例を用いる.各プログラム例についてデータ型・プログラム構造・プログラム名(述語名)という 3つの視点を設け,手掛かり表現を用いて自由に検索し,実行・比較させることで学習者のプログラミング技術を高めるのが目的である.
赤井隆志,伊丹誠,伊藤紘二(東京理科大学 基礎工学部)
UNIX は便利な OS として広く普及し今日に至っているが,豊富な機能のために初心者にはとっかかりにくいものとなっている.そこで,水準の異なる学習者が独習をする際に,これを支援するようなシステムの開発が望まれる.本システムでは手始めに初心者を対象とし,コマンドの使用例を検索させることにより,UNIX コマンドの使用法をガイドすることを目指すシステムを構築した.支援の概要としてはまず,ユーザにプリミティブのメニュから問い合わせとしてのゴールを入力させる.システムは,それとマッチする手掛かり表現を検索し,対応したコマンド使用例を提示,ユーザに選ばせる.ユーザは,そのコマンド例の要素の学習や,それを説明するシェルスクリプトの実行による学習を行うことができる.
宮本健,伊丹誠,伊藤紘二(東京理科大学 基礎工学部)
学習者の自由な問題解決手順をサポートするような学習支援システムを考えるに当たり,問題解決のステップ毎のプロセスの状態をスタックを用いて保存する事によって,学習者が少し戻って違った方略を使ってやり直したり,以前行なった方法を再度検討したりすることを可能にするシステムの構築を試みた.システムは,Prolog 上にオブジェクト指向のスタイルを取り入れ,その上で開発を行った.支援は,学習者に問題のタイプに合った枠組みで問題記述を行わせ,問題解決のための知識検索,知識の適用の支援を行う.今回は,システムの具体的な内部処理や,動作を報告する.
伊藤紘二,伊丹誠,西田正美(東京理科大学)
本論文は,まず,VanLehn, K. の主張する self explanation に基づいた学習の方法論について論じ,学習支援システムの開発においては,Task Level と Discussion Level を分離して考えた上で,パラメタによって結合するのがよいとする Cumming, G. の提案について論じている.ついで,メディアベースの探訪支援として我々が開発している CAFEKS を,この 2つの考え方を実現するような形に発展させる方法を論じた後,Discussion Level の仕組にとって基本となる手がかり知識表現と問題記述の両方にとっての構成要素であるプリミティブの体系を提案し,小規模なプロトタイプで使われている手がかりの記述の例を示している.
渡辺成良,渋澤良裕(群馬大学 工学部)
知的個別指導システム (ITS) が学習者の知識状態に適合した個別指導を行えるためには,システムは伝達した知識のモデルを学習者がどのように認識してモデル化したかを推論し,その理解モデルに依存した指導方略を適用できなければならない.教授やテキストにより伝達された知識のモデルは,モデルの構成要素についての学習者の知識状態に基づいた解釈とモデルの再構成によって認識されると考えられる.一般に知識のモデルの伝達方法を工夫しなければ学習者の解釈と再構成は多様になり,一貫性に欠ける学習になってしまう.そこでハイパーテキストを用いて知識を学習者に伝達する方法を採用し,伝達知識のモデルの記号,式,図を交えた説明と伝達知識の適用例をハイパーカード上に明確に表現することにした.学習者は自由にハイパーカードを巡ることができ,システムは記録された巡回軌跡を解析して得た理解モデルに基づいて,予め用意された指導方略を選択する.この指導方略は伝達知識の定着のために学習者が行なう問題解決を支援する ITS で用いられる.
松田昇(金沢工業大学),岡本敏雄(東京学芸大学)
問題解決型の ITS において,解法知識の習得状態に関する学習者モデルを構築することは,比較的容易である.しかしながら,対象学習世界の公理系に対する理解状態を推論し,誤りの直接的な原因となっている学習者の概念構造を推論することが望まれる.本研究は,仮説推論の手法を適用して学習者の応答を説明することにより,深層的な理解状態における仮説を推論する枠組みを提案する.学習者の理解状態を説明する仮説は,複数の異なった主張であることが一般的である.そこで,仮説選定の機構として,ATMS の手法を適用する.これにより,仮説を決定的に求めるのではなく,学習者の応答に矛盾しない限りにおいて支持するといった非単調な意志決定のモデルが実現される.本稿では,このような非単調な仮説選定機構により教師の教授戦略における意志決定モデルを提案する.
岡本敏雄,森広浩一郎(東京学芸大学)
本稿では,非単調推論の機能を取り入れた学習者モデルの表現と利用について述べる.これまでにもオーバーレイモデル,差異モデル,摂動モデルのような学習者のモデル化の多くの技術と方法が提案されてきている,ここでは非単調推論の考え方を取り入れ,真理保全機構の機能を使うことにより,学習者が教授・学習過程の中で獲得する知識の深い構造をシステムがどのようにして理解するかを議論する.ある領域に対する学習者の理解の構造は,一般に彼の既存の知識間の依存関係により定まると思われる.したがって我々は彼の公理系のゆがみを理解することが重要であると考える.さらに本稿では,学習者モデルの状態を解釈して得られる一般的な教授規則と,適応的な教授展開を開発し得る対話管理規則について示す.
松原行宏,前田龍一,小野真道,長町三生(広島大学 工学部)
個別教育におけるドリル&プラクティスは,公式などの基本的知識の習得やその運用方法の習得のために重要である.一般的に学習者の問題解決を支援するための手段として,問題の内容に関する説明,解法についてのヒントの提示などが考えられる.しかし学習効率を考えると,それらを明示的に与えるより学習者が既に所有している知識や問題解決の方略を用いて問題の解法を発見させる方が効果的であり,学習者が過去に解いたことのある類似した問題を提示し問題間の関係を説明する方法,つまり類推学習が有効であると考えられる.そこで本稿では学習者の類推による問題解決を支援する ITS における教材知識の構成法を提案し,実際に幾何論証の領域に適用した事例について述べる.
安田恭一郎(トッパン・ムーア システムズ),岡本敏雄(東京学芸大学)
本研究では,C言語を学ぶ初級プログラマの学習支援を行うための ITS の枠組みを提案する.本システムでは,アルゴリズムの理解レベルでのプログラム理解を目的として,木構造グラフ表現されたプログラム・プラン及びプロダクション・ルールで記述されたプログラミング知識と,課題アルゴリズム知識を用いて学習者のバグの同定を行い,その背景にある誤概念の同定を行う.また,開発したシステムを実験ツールとして用いた学習実験を行い,システムの評価および初級プログラマのプログラミング過程の分析を行う.
最首和雄,横田俊幸,小貫晃義,日下部千春(山形大学),富樫暹(キャノンソフトウェア),小沼雅樹(MTEX-Matsumura)
山形大学では LISP により CAI システムを開発し,それによりコースウェアを作り学習指導に利用し,効果的な授業や演習を行っている.この CAI システムを我々は LISP-CAI と呼んで利用している.1990年度にこのシステムによる新しいコースウェアの開発,このシステムのための新しい LISP インタープリタの開発,市販の IC-LISP を用いた CAI システムの開発などを行ってきたので,それらについて報告する.
岡本竜,矢野米雄(徳島大学 工学部)
オーサリングシステムは CAI システムの効果的運用に重要な役割を果たす.最近の ITS に関する研究の進展により,問題生成を効率的に行う機構を ITS に備える必要性が高まっている.本稿では ITS の問題生成機構に対し,問題生成の枠組みとなる教材モジュールを供給するオーサリングシステムを提唱する.本研究では中学校の“英語演習問題を対象とした ITS”のために教材モジュール作成を目的とした知的オーサリングシステムを対象とする.そのために英語対象領域の知識継承関係と演習問題形態に基づく対象知識構造の明確化,それらを用いた自然言語の AI的手法による演習問題の自動作成過程について述べる.さらに ITS の教授戦略に従い,動的問題提示が可能な教材モジュール作成について言及する.
富谷喜一,久保田広,西岡利博(三菱総合研究所)
我々は現在,コースウェアに知識ベースを含ませることにより,コースウェアに依存しない汎用的な知的機能を持つ CAI システムを開発している.このシステムでは学生モデルの更新をエキスパートシステムを用いて行い,更新後の学生モデルをもとに,再びエキスパートシステムを用いて次に学習すべき項目を選択する.教材にはハイパーテキストの構造を持たせ,マルチウィンドウシステムを通して学習することにより,柔軟な学習環境を提供することを目指した.汎用的な機能だけでは知的機能に限界があるため,分野を特定した機能として C言語用のプログラム理解/診断機能を開発中である.このシステムは「UNIX+X ウィンドウ」の環境で稼働する.
藤崎健幸(徳島大学 工学部),金西計英(関西学院大学 総合教育研究室),矢野米雄(徳島大学 工学部)
ITS に於ける教授戦略や学習者モデルの構築を行なう場合,学習者が自ら持っている知識を如何に使って問題を解くかということを考慮する必要がある.地理学習に於いては,学習者は単に暗記学習を行なうだけではなくて,特徴や因果関係を見出すことによって学習の効率を上げ,陰に知識の定着を図っていると考えられる.本研究では,地理教育のための ITS の構築を目的とする.そして,特色や因果関係を扱う問題が与えられた場合に,問題解決に必要な視点を設定するための典型モデルを提案する.これによって原問題から小問題を学習者に生成させて解答の候補と,解答決定に必要な根拠を列挙させる.最終的には各候補の持つ確信度によって解答を決定させる.本稿では,このような問題解決過程についての考察を行なう.
古田貴久,松田俊樹,坂元昂(東京工業大学)
高度個別化の実現手段の 1つとして ITS の研究が進められてきた.この ITS の重要な構成要素の 1つに学習者モデルがある.適切な個別指導を行う上でこの学習者モデルは実際の人間の問題解決過程をとらえなくてはならないと考えられる.本稿では認知科学の知見を取り入れ,repair theory に基づく学習者モデルを形成した.幾何の作図問題におけるある誤答について,集団調査,プロトコル分析を行い,誤答発生過程を repair theory に基づいて詳細に調べた.この分析で得られた知見に基づき,TMS と abstraction を用いて学習者モデルを構築した.このモデルは,impasse およびそれに対する repair を再現し,かつまた,複数の問題に対して人間の学習者と同様な誤答を示したという点で,心理学的妥当性が高いと考えられる.
小林学,古川厚,大場勇治郎(慶應義塾大学 理工学部)
知的 CAI の開発において,いかに知識を整理するかは重要な問題である.しかし,教師が膨大な量の知識を整合性のとれた形でまとめあげることは,おおきな労力を必要とする.この問題を解決するために我々が以前に提案したシステムについて,ここでは,より効率よく知識をまとめ活用するため,対象とした電磁気学の分野における知識を,4つの観点から分類,詳細化した.
柏原昭博,西川智彦,桐生健一,平島宗,豊田順一(大阪大学 産業科学研究所)
電気回路やプログラムなどの対象の理解を説明によって教育的に支援する ITS では,(1)学生の理解を説明によって誘導する機能,(2)学生の質問に応答する機能,が重要である.さらに,各機能では,学生の理解状態や教育状況などを考慮して支援に用いる説明を使い分けることができなければならない.筆者らは,このような機能を持つ ITS として LEIEC/I を開発した.LEIEC/I は,電気回路の理解を支援するシステムであり,(a)電気回路に関する説明の整理,(b)整理した説明を可能とする説明機能のためのモデル EXSEL の開発,(c)理解誘導および質問応答のための EXSEL の運用方法の整備,を完了している.本稿では,LEIEC/I の設計・開発について述べる.
大槻説乎,竹内章,有村博紀(九州工業大学 情報工学部),森英一(嘉穂高校)
学習者に自由なダイレクトマニピュレーションを許すマイクロワールド型 CAI を提案し,その特徴と教育的な意味および適切な応用領域について考察する.またマイクロワールドを実現するために必要な機能について検討し,そのような環境で学習者の意図を推定する問題について議論する.さらに,マイクロワールドが推定することができる学習者の知識獲得の内容について考察し,マイクロワールドと ITS とが,互いに相補的な役割を果たすことを示す.最後に,実際に作成しているマイクロワールド型の英語教材について,機能,振舞い,リンクの自動生成等の問題について,概略を報告する.
平賀正樹(富士通),馬原宗俊(富士通大分ソフトウェアラボラトリ),後藤哲博(TNBソフトウェア)
現在の CAL(もしくは CAI)では,問題とその正解を予め用意する必要があった.しかし,システム自身に問題を解く機能を持たせることにより,学習者が自由に問題設定を変更することができ,対応する正解はシステムが自動的に求めることができるようになる.このような考えに基づき,対話型学習,シミュレーション学習などを目的とした CAL システムを,パソコン上に試作した.本報告では,その特徴について説明するとともに,教材作成支援ツールへの可能性について述べる.また,現状の問題点や今後の課題などについても言及する.
対馬勝英,加賀英徳(大阪電気通信大学),藤井研一(大阪大学)
田中淳志,渡邉豊英,杉江昇(名古屋大学 工学部)
本稿では,知的教授システムにおいて専門知識教材が指導計画の立案に対して果たす役割を明確にし,かつより効果的に指導計画を立案できる教材構造を考察する.また,その教材構造に基づいた指導計画の立案プロセスも検討する.専門知識教材は単に個々の学習内容の集合ではなく,個々の学習内容が相互に関連付けられ,一連の教授に有機的に利用可能でなければならない.我々はこの間連情報を教材構造の下に分析し,教材相互の意味付けを明確にして教材構造を定義した.指導方略では,学習者の応答に応じて関連情報を探索することにより,適切な指導計画を立案できる.さらに,柔軟な教材の利用を可能にするためにシナリオ機構を導入し,教師が指導方略を指示可能とすると同時に学習者が自習レベルに合った教授コースを選択可能とした.
岡本敏雄,池田武史(東京学芸大学)
本稿では,Winograd(1972) による積み木の世界を再現し,これにゴール指向のプランニングを認識できるプランナの機能を取り入れたシステムの構成について述べる.そこではプランニングの同定の方法,問題空間の解決戦略,簡易パーザによる日本語の解析法について詳述される.さらにこのシステムではマクロプランという考え方を用いてモジュール間の独立性,制御の認識の容易さも実現している.
日時:1991年 5月 17日(金) 14:00〜17:00
会場:機械振興会館 6階 65号室
玉木裕二(東京農工大学 工学研究科 情報工学講座),森田雅夫(富士ゼロックス),並木美太郎,高橋延匡(東京農工大学 工学研究科 情報工学講座)
本研究室では,毎年新しく研究室に配属される新 4年生を対象に,言語 C 勉強会を開いている.これは,新 4年生をシステムプログラマに育成することを目標に,演習形式で行っている.本研究では,この勉強会の代わりとなる CAE システムを実現することを目標にしている.その第一段階として,学習のための実行環境を実現し,学習者の行動を分析することにした.本稿では,言語 C の CAE システムとそのプログラム実行環境と,学習者の行動分析について述べる.
一松信(東京電機大学 理工学部)
今回の改訂指導要領高等学校数学(平成 6年度より実施)に,コンピュータが積極的に取り上げられた.その使用も指定された選択科目:数学A・数学Bの各 1単元と数学Cに限定されるものでなく,随所に活用可能である.ここでは数値・図形・記号の各処理という機能別の観点を中心に,その活用例案を述べる.併せて教育システム開発者への要望を論じたい.
有山正孝(電気通信大学 電気通信学部 情報工学科)
平成元年 3月に改正告示された高等学校学習指導要領は,社会の情報化の進展への対応に重点を置いている.本稿においては,新指導要領における理科教育の中での情報教育あるいはコンピュータ利用の取扱いを解説し,またそれらの実施上の問題点を論じる.
日時:1991年 7月 19日(金)10:30〜16:30
会場:宇都宮大学 情報処理センター
徳田尚之(宇都宮大学 教養部)
新設された宇都宮大学の情報処理センターで過去 4年間実施してきた一般教育課程での情報処理教育の現状を報告し,ネットワーク環境下でのコンピュータ・リテラシー教育という観点からその問題点を探る.ネットワーク社会での初心者向けの一般情報処理教育の重要性を指摘し,大学教育のなかにどのように位置づけるべきか,カリキュラム,受講生数,演習設備・教育実施体制の面などから吟味した.計算機教育への TA (Teaching Assistant) の積極導入,“マウス操作やメニュー方式駆動”などユーザ・フレンドリなシステムへの移行,問題解決能力を重視した情報処理教育の必要性を提唱する.
藤原克彦(宇都宮大学 農学部)
宇都宮大学情報処理センターを利用して実施されている農学部の情報処理教育の概要を説明する.実施内容は学科により異なるが,専門科目の理解を深めるためのコンピュータを用いた演習であるという点で,目的は共通している.SAS や FORTRAN による数値演算,統計処理,シミュレーションが中心となっている.
泉本利章(立教大学 一般教育部)
立教大学においては,池袋のメインキャンパスにおけるコンピュータセンタの学生用 TSS端末実習室に加え,1990年 4月新座キャンパス開校とともに,多数のパーソナルコンピュータ(3機種)を導入したコンピュータ実習教室が新設された.そこへ通う各学部の 1年次生を対象に,一般教育科目としての一般情報教育と 1部の学部による情報基礎教育も始まった.この報告では,やっと可能になったコンピュータ教室設備を用いた情報教育のカリキュラム例と利用環境を池袋キャンパスの場合と比較して紹介する.両キャンパスの異なる設備と利用環境で同時にほぼ同じ内容で試験的に行った授業経験についても述べる.また,一般教育の情報科目以外の語学などでのコンピュータ教室利用や学部による情報基礎教育の例も簡単に報告する.最後に,コンピュータ教室設備と利用環境の問題点についても考察した.
斎藤信男,安村通晃,有沢誠,村井純,千代倉弘明,冨田勝,徳田英幸,萩野達也,渡辺利夫,楠本博之,加藤明,立木秀樹(慶應義塾大学 環境情報学部)
慶應大学湘南藤沢キャンパスでは,新しいキャンパスに相応しい本格的なキャンパスネットワークシステム SFC-CNS を構築し,その上で一般的な情報処理入門教育を実施している.その内容,教育カリキュラムと,その経験を踏まえた問題点の整理を示す.将来的には,分散環境は大きな可能性をもっていると判断される.
武井惠雄,奈良久(東北大学 情報処理教育センター)
高度情報化社会の基盤形成の観点から,これからの大学における一般情報処理教育の内容と教育環境の高度化・高水準化の方向について検討する.従来の一般情報処理教育においては,教育対象の学生が多岐にわたるので,情報科学の根幹を避けて,その周辺を含む一般的教育を行うのである,といった理解や,情報活用能力の涵養ということから,コンピュータのサービス機能に重点をおいた教育が適当である,といった主張がなされてきたが,これからの高度情報化社会において必要とされる個人の資質として,もっと本質的な教育が必要であり,且つ,それを教育する方法があることを示す.
馬場良和(静岡大学 教養部)
情報化社会で生活するために必要な知識を提供することと,コンピュータに親しんでもらうことを,当面の「情報科学」の授業の目標にしている.前者のためには,情報の概念,情報伝達の手段発達の歴史,情報化社会の実際・問題点・将来像,モールス符号・点字・暗号など情報の符号化,情報量などについて講義する.また,後者では後学期に半年コンピュータの実習を行うが,その内容は,端末機間の通信を 2-3回やって機械に慣れさせてから,BASIC による簡単なプログラムの学習をした,というのが昨年初めて計算機実習を行ったときの状況である.実習は,計算機の環境と,文科系学生が対象である,ということにかなり規制されざるを得ない.
飯倉道雄(日本工業大学)
本稿では,計算機教育における独習環境の構築について報告する.計算機工学演習の初期教育段階における,マン・マシン・インタフェースとしてのアクティブなヘルプ機能について述べ,この機能を利用した演習授業の結果について考察する.
日時:1991年 9月 20日(金)13:30〜17:00
会場:機械振興会館 地下 3階 9号室
山次和男,佐藤文博(日本情報処理開発協会 中央情報教育研究所)
情報化の急速な進展に伴い,情報処理技術者の需要が増大する一方で,当該技術者の質的・量的確保が困難となっている.この課題解決にあたっては,企業における技術者育成および学校教育機関における情報処理教育の実態を把握し,具体的な対応策を検討する必要がある.本稿では,中央情報教育研究所が平成 2年度に実施した調査結果の中から,各学校機関における産業界への供給状況,言語の理解度,教育上の障害,教員の能力向上方法について,次に,企業に関してはソフトウェア業と他の産業を比較し,採用状況,要員の充足状況,必要な知識・技術,インストラクタの確保の実態と課題について概観した.
渡辺純一(インターナショナル・コンサルテーション・アンド・エデュケーション・サービス)
1985年から 1986年にかけて,米国の雑誌で SIS(戦略的情報システム)の事例が 10数例紹介されて以来,企業の強い関心を集めてきた.それまでは情報システム(適用業務システム)の目的は主に業務の合理化に絞られていたが,これらの SIS の事例によって,適用業務システムは収益獲得やコストの大幅抑制も狙いにできることが実証された.狙いが相違するために,SIS の構築には,従来の開発工程に加えて企画工程が必要になることを始めとして,構築工程や構築手法などの面で新しい技術の追加や在来技術の拡張が必要になる.SIS は反復的に構築していく必要があるため,SIS の構築技術に関して適用業務開発に責任を持つ SE の再教育に必要性が生じている.
佐藤文博(中央情報教育研究所),渋井二三男(城西女子短期大学),田村武志(国際電信電話)
今後の産業界において,情報処理教育を効果的に推進するためには,高度技術者からエンドユーザに至る広範囲な人材に対して,多種多様な教育が要求されるものと想定される.特に,個々の企業においては,経営戦略を踏まえた新たな視点から人材育成プランの開発とその運用が求められている.さらに新規技術やツール等の導入に対応して,教育内容の改善や良質な教材をタイムリーに作成・利用していくことが重要な課題となる.我々は,これらの事項を的確に効果的に推進する人材を育成することが最も重要であると考え,教育を企画・推進する新しい人材(教育専門家)について提案する.そして,この教育専門家を支援する戦略型教育システムの試案について考察した.
鎌形忠典(SCC 情報技術実用化研究所)
情報処理技術者の不足が叫ばれてから久しくなるが,その技術者を多数,そして早く育成するためには衛星教育システム(遠隔教育システムの一つの手法)が,その最善の解決策の一つであると考える.そこで,衛星教育システムを実現するために,(1)情報処理技術者を育成するための要件を洗い出し,(2)それに合った衛星教育モデルを考え,(3)衛星教育の実現に向けての,コース開発および教授方法の指針を示して,最後に,(4)衛星を利用した情報処理教育の実践例を示し,情報処理教育を支援する衛星教育システムの実現方法についての研究を概観した.実践例の中で,評価方法および従来の座学と衛星教育での学習効果の差についても示した.
池田尚義,鶴田勝秀(富士通 システム本部 教育事業部)
SE など,技術者にとって,研究成果発表会や研修会でのプレゼンテーションは,自分の研究のポイントを人に伝えたり,技術移転を図る上で重要な仕事である.我々は,マルチメディア技術を基礎として,目的や期待効果に応じてメディア(絵・映像・音声)などを使いインパクトのある発表ができるソフトウェア『伝』を開発した.『伝』は,実行ソフト,編集ソフト,画面素材集などから成る.本論文では,開発の課題,開発技術,OHP,スライド,ビデオなどのプレゼンテーションツールとの比較について述べる.プレゼンテーションという人間的な仕事を,円滑かつ効果的に行うための機能やヒューマンインタフェースについて,『伝』の特徴,工夫点を中心に論述する.
日時:1991年 11月 15日(金)12:30〜17:45,16日(土)9:00〜12:45
会場:九州工業大学 情報工学部 第 1 会議室
江木鶴子(宇部短期大学),岡村健史郎(大島商船高専),長田一興(近畿大学 九州工学部)
筆者らは,COBOL 入門コースで学生が作成した誤りプログラムを対象に,初心者の起こすプログラミングの誤りに関して,(1) 実行時に異常終了する誤りの頻度と原因,(2) ゴール/プラン分析法によるゴール別の誤り傾向,の 2つの側面から今まで分析した.今回それらの分析結果に基づいて,プログラムの誤りカタログを作成し,誤りプログラムと共にそれらをデータベース化した.本データベースの特徴は,学生が実際に起こした誤りプログラムが格納されていることと,学生,教師,研究者からの利用を考慮して,誤りの指導と誤り訂正過程の情報も含めていることである.本論では,データベースの構築とその内容,データベースの一部を教育に利用した経験について述べる.
石田久之(筑波技術短期大学)
本報告は,OCR と点字プリンタを中心として,点訳支援システムを構成し,点訳に要する時間を短縮するための方法を検討した.収集された典型的な OCR の文字読み取り誤りから作成された編集コマンドによる自動編集を検討し,その有効性を示した.しかし,点訳過程全体をみると,墨字修正と点字書式修正という 2ヶ所の修正過程があり,前者を省略するために,墨字自動修正のための読み取り誤りデータの収集とともに,以下の点を検討する必要があることを論じた.(1) 墨字修正を省くことによる,点字書式への変換の精度の低下,(2) その結果としての,点字書式修正のための時間の増加.
渡辺健次,岡崎泰久,田中久治,只木進一,近藤弘樹(佐賀大学)
ITS がシステム主導でその動作を決定する場合,システムがどのような目的で使用されるかが重要な役割を果たす.本論では,分数計算を指導する ITS を例として,システムの使用目的と指導方略との関係を論じる.更に使用目的のいくつかの類系について,指導方略を例示する.
時森健夫,野村康雄(関西大学 工学部),河野恭之,池田満,溝口理一郎(大阪大学 産業科学研究所)
ITS において対話は,システムと学習者との間の重要な知識相互伝達手段である.筆者らは,既に ITS のための汎用フレームワーク FITS を開発しているが,システムが生成する対話には教育的な意図が希薄であったため,教育の自然な流れを損なう場合があった.特に,学習者モデル構築のための対話に関しては,そのほとんどが機械的な情報の獲得であったため,教育的な観点から対話制御を加える必要がある.そこで,本稿ではシステムが生成・提示する対話プロセスを統合管理するためのメカニズムを提案する.
藤崎健幸(徳島大学 工学部),金西計英(関西学院大学 総合教育研究室),矢野米雄(徳島大学 工学部)
ITS における教授戦略や学習者モデルの構築を行なう場合,学習者が自ら持っている知識を如何に使って問題を解くかを考慮する必要がある.本研究は,地理学習のための ITS の構築を目的としている.対象問題を統計表を扱う問題とし,問題の解決方法をボトムアップ的に解析して,使用される知識の分類と記号化を行なう.また,ITS における問題の解決と学習支援の 2つの側面を考慮して,対象問題からの視点抽出,部分問題導出と部分問題の解決に関する考察を行なう.原問題に適切な視点を与え,問題を適切に分割して解く方法は,効率的な問題解決に有用であると考える.
木山稔,福原美三(NTT 情報通信網研究所)
知的 CAI システム CAIRNEY におけるシミュレーション機能に関し,教材知識の表現法,教材作成法,および評価結果について述べる.本機能ではプログラミングスキルを持たない教材作成者が容易にしかも短期間でシミュレーション教材を作成できることを目標にした.シミュレーション機能は,シミュレーション部,トレーニング部,教授部の 3階層から成り,各々の知識を独立に管理することにより教材作成を見通しよいものとした.シミュレーション部の教材知識は状態遷移を基本とした形式で表現する.また,トレーニング部の教材知識はシミュレーション部を使い,操作列等の簡単な入力にから生成できることを示す.教授部では熟練オペレータが持つ教授法を用意することで学習効果の向上をはかった.本機能を教材作成の観点から評価し,当初の目標を十分に実現できることがわかった.
林敏浩,矢野米雄(徳島大学 工学部)
外国人にとって漢字学習は日本語を習得において最も難しい学習であり.日本の一般的な漢字学習法は外国人には適さない.我々は計算機を用いて外国人が漢字学習をするための新しい学習環境を構築している.我々日本人が知らない漢字を見た場合,その漢字の意味や読みを漢字の部分構造から類推できる.漢字の部分構造の学習は重要であり外国人は漢字の部分構造の知識を用いて漢字を系統的に学習できると考える.我々は漢字学習のために部分構造知識を持つ辞書と,部分構造を用いて自由に漢字を作れる知的学習環境を学習者に提供する開放型 CAI システム“漢字工房”を構築する.
新ヶ江登美夫(福岡大学),竹内章,大槻説乎(九州工業大学)
マイクとワールドと ITS が一体となって働く教育システムを実現するために,学習者の理解状態に関する情報が取り出せ,学習者の状態に応じて環境が設定できるマイクロワールドを記述するオーサリングツールを作成した.これを用いて,教師は独自の授業設計にしたがってコースを作成し,学習者の理解状態に応じて変化する適応的な環境を容易に実現することができる.実現には HyperCard を用いており,短期間でプロトタイプシステムを完成させることが出来た.
渋澤良裕(群馬大学 電気電子工学科),渡辺成良(電気通信大学 電子情報学科),宮道壽一(宇都宮大学 情報工学科)
コンピュータによる知識伝達は,教室において教師が複数の学生に教授する授業方式に比べ,学生の知識状態に適合した個別の学習環境が提供できる可能性があるために注目されている.ハイパーテキストは教科書のもつ逐次的な知識の伝達方法に加えて,コンピュータの持つランダムアクセス機能によって非逐次的な学習環境を提供できる利点がある.知的な教育システムを目指す ITS の研究でも,どのような方法で学習者に知識を伝達しそれを定着させるかが問題とされている.本文は知識をハイパーテキストで学習し,知識を定着させるために ITS によって演習する方法を提案する.このために,テキストのページに対応するカードの書き方,カードを関連づけるリンクの張り方を説明する.さらにハイパーテキストを用いた学習者の学習過程を追跡するプログラムを示す.ハイパーテキストはテキストや例題による学習過程で利用する.この過程を終了した学習者は問題を解決する知識の定着過程に移る.学習者は学習過程の知識状態に基づいて問題を解決しようとするから,学習過程で学習者が開いたカードを追跡して学習者の観点や行き詰まりを推定する方法を説明する.提案した方法で学習した場合と授業によって学習した場合についての演習の差を調べた結果,明らかな違いが見られたので報告する.
徳田尚之(宇都宮大学),安納順一(富士通 文教システム課)
本論文では,Van Lehn (1986) がその学習(修得)過程が‘帰納仮説’で説明出来るとして挙げた 66個のバグを階層的に分類し,原始的バグは単独でのみ現れ,しかもバグの移行は起きないという限定された条件下でのバグ診断システムを構築した.階層構造は,1 借りを伴わないバグ 2 被減算に 0 を伴わないバグ 3 被減数に 0 を伴うバグと大分類しそれ以下は,各ノードに与えている問題群がバグを曖昧さなく区別出来るように選んだ.バグ探索は,最短で深さ 2,最長で深さ 7 で完了する.このシステムは図形編集なども容易に出来るマッケントッシュのハイパーカード上で行った.複合バグ・バグ移行の取り扱いについてはいま研究中である.
森広浩一郎,池田満,溝口理一郎(大阪大学 産業科学研究所)
学習者モデルの構築は,教育戦略に必要なモデル化の範囲と,モデルの構築可能性の限界の 2つの問題を考慮して行なわれるべきである.しかしこれまでの学習者モデルに関する研究では,これらの問題に明示的に答えようという試みがあまりなされていない.本研究では,手続き的知識を題材として学習者モデルに対する要求仕様の整理・検討を行なう.これにより教育目的に応じたモデル化の範囲とモデルの構築可能性の限界を明らかにし,適当なレベルの学習者モデルの構築方法を示すことを目的とする.本稿では,手続き的知識のうちで特に戦略知識の修正教育を対象として,教育戦略モジュールからの学習者モデルに対する要求仕様を考察し,その要求仕様を満足するモデル構築の一例を示す.
松田昇(金沢工業大学),岡本敏雄(東京学芸大学)
本研究では,ITS (Intelligent Tutoring System) における学習者モデルの機能を検討し,適応的教授に必要とされる学習者モデルの構成およびその構築手法の開発が目的とされる.筆者らはこれまでに,問題解決型の学習世界に望まれる学習者モデルの構成と診断技法について考察してきた.そこでは,単に解法知識の習得状態を表現した表層的な学習者モデルでは十分ではないという立場から,対象学習世界の公理系に対する深層的な学習者モデルを推論することが目的とされている.本稿では,この枠組みに基づいて,問題解決の学習世界に望まれる教授形態と学習者モデルとの関連について述べる.そのために先ず,ITS に望まれる適応的な教授について考察する.次に,適応的教授を実現するために,学習者モデルに望まれる機能について考察する.その際,これまでに開発された学習者モデル診断システムの問題点を整理し,拡張された学習者モデル診断システムの構成について述べる.
岡本敏雄,鷹岡亮(東京学芸大学)
ITS/知的 CAI において,教授・学習プロセスにおける学習者の対象世界に対する認識・理解,さらに問題解決等の様々な行為をモデリングする機能は極めて重要である.それらの行為は,外在化 (overt) されたものとして,コンピュータに伝達されるわけであるが,外在化された表出行為の内部には,内在的な行為が存在しているわけである.知的 CAI においては,この行為を外在化された行為から如何に認識するかが重要となる.その認識の方法として,本研究では,人間の概念形成・知識獲得のメカニズムを検討し,モデリングの方法論に対して,それをどのように組み込むかを探求する.
伊藤紘二,伊丹誠(東京理科大学 基礎工学部)
本稿は,学習支援環境 CAFEKS において,メディアを用いたメタファ表現を導入する試みについて提案している.これによれば,システムの支援によって学習者は,問題の対象世界の認識を知覚・運動感覚に訴えるメディアによって表現することができ,システムは,知識の適用や問題解決のコンテキストをメタファによって提示する.学習者は,これらの表現に介入して結果を見ることができる.実現には,X ウインドウ環境において管理実行されるメディアインタフェースオブジェクトを,C 言語の上のオブジェクト指向で構成し,Prolog で書かれる知識ベースのクラスに置かれたメソッドから,そのクラスのメディアを制御する.なお,いくつかの分野で試作中のオブジェクトの仕様について論じている.
島崎克也,坂根謙一,野村康雄,太田義一(関西大学 工学部),池田満,溝口理一郎(大阪大学 産業科学研究所)
筆者らは,ITS の本質的構造の明示化と構築容易化を基本姿勢として掲げ,ITS のための汎用フレームワーク FITS をこれまでに開発している.一般に,汎用フレームワークを用いた ITS の構築には,フレームワーク設計者と教材入力者が携わるが,システムの構築を容易にするには,教材入力者の負荷を軽減させる必要がある.そのためには,教材に依存した知識とその表現を明確にした上でそれらを獲得するための環境を考察しなければならない.本報告では,FITS の動作例を示した後,それを実現するための FITS における教材依存の知識を明示し,さらにそれらの知識の獲得方法について述べる.
山本公洋,斎藤謙一,小西達裕(早稲田大学 理工学部),伊藤幸宏(静岡大学 工学部),小原啓義(早稲田大学 理工学部)
問題演習型 ICAI では,問題対象となる世界のモデルを内部に構築する能力を持つ必要がある.しかし,一般にそのモデル表現には,利用目的に応じて極めて大きな自由度が存在する.単にある一通りのモデル表現だけでは,十分な問題解決能力を得ることが困難である.この問題を克服するためには,世界のある一つの側面を表現したモデル表現から,別の側面を表現したモデル表現を引き出す「再認識」の機構が不可欠となる.本稿では,現実世界に対するモデル表現の自由度と再認識のタイプについて検討すると共に,高校化学の問題演習型 ICAI を題材とし,世界モデルの表現法と,再認識を考慮した演習問題求解機構に対する一提案を行なう.
平嶋宗,柏原昭博,豊田順一(大阪大学 産業科学研究所)
本稿では,ITS における問題演習支援の高度化を指向した算数の文章題の体系的整理と,その整理に基づいて設計された問題演習支援機能について述べる.ツルカメ算等の算数の文章題は,それぞれ固有の数量関係を含んでおり,この数量関係によって各算数の文章題を定義した.さらに,同様な数量関係を含んだ問題の分類を,問題よりその数量関係を生成するために必要な操作,扱われている数量の性質,数量の付属している概念的意味によって行った.また,それぞれの問題に対する解法は,数量関係の算術的な解決方法として定義した.この問題分類に基づいて設計・開発中である問題演習のための出題機能と問題間対応付け機能についても述べる.
日時:1992年 1月 17日(金) 13:30〜17:00
会場:機械振興会館 地下 3階 2号室
曽我聰起(北海道栄養短期大学)
GUI などの高度なインターフェースを組み込んだパーソナルコンピュータを用いることにより,短大の教育に画像データベースを用いた教育が可能となってきた.本編では卒業研究の課題の成果を通じ,今後短大における必要な教育方法の一つとして,また情報処理教育の両面から考察する.
上田宏一(金城短期大学),Enrique R. Filloy G.,寺下陽一(金沢工業大学)
我々は,海外技術者教育向け CAI コースウェア開発を行っているが,今回システムのプラットホームとしてパソコン用ウィンドウシステムを導入した.このことにより,パソコン全体の能力が向上し,ウィンドウ上で動作する高性能な開発ツール群を用いて,ウィンドウシステムの特長を活かした高機能なコースウェア開発を行うことの有効性について調べることができた.この過程で検討,吟味し,採用した設計手法,オーサリング手法についてその概要を説明する.
伊藤俊秀,中井哲夫,柴山守,松本保美,植松康祐(大阪国際大学)
急速な技術革新を背景とした情報化社会の進展にともない,大学教育におけるコンピュータの利用方法も従来とは異なった新たな形態を考える必要がある.大阪国際大学経営情報学部では,平成 3年度の新入生から全員にノート型パソコンの購入を義務づけている.本学では教学の性格上,学生に何の制約もなく最新の機器でコンピュータを使用させる環境の整備が不可欠である反面,技術進歩やコンピュータを使用する科目の増加にともない設備が対応しきれないためである.本稿では本学におけるノート型パソコン導入の経緯と効果について述べる.
望月純夫,山内顕(三菱スペース・ソフトウェア)
過去の設計技術者の育成は,OJT に頼ってきたが,あまり効果的ではなかった.新しい設計教育環境の開発には,先ず設計技術を顕在化させ,それを中心とした教育環境を設計する必要がある.我々は,プロセス・モデル HFSP に基づき設計技術を分析,記述した.その結果,熟練技術者は長年の設計経験から普遍的モデルという形の設計技術を蓄え,それを設計対象システムの特性に合わせて調整し,実行可能モデルに変換して実際の設計作業に適用していることが明らかとなった.この様な研究成果を中心として設計教育コースウェアを開発し,技術者教育を試みてその効果を確認した.この設計教育コースウェアは,将来的には,設計コンサルティング・システムに発展させる積もりである.
山本秀樹,田川忠道,下畑光夫(沖電気工業),平山輝(大阪ガス),大場克哉,井谷浩二(オージー情報システム総研),浅野雅代,瀬戸美枝(沖テクノシステムズラボラトリ)
本論文では,音声認識を使って会話シミュレーションに基づいた教育を行なう環境型語学教育用知的 CAI システムの教授方法とシステムの構成について述べる.まず,学習者のレベルについて考察し,対象とする学習者のレベルに沿った教材の概念構造と会話シミュレーションに基づく教授法を提案した.さらに音声認識システムを使ったシステムの構成と知識表現について提案する.本システムは,音声入力が可能なため会話の臨場感が高くなっている.教材知識及び教授知識は,実際の発話文に近い形式の知識表現を採用したために,教材の拡張を従来のシステムと比較して容易に行うことができる.