第26回研究発表会

 日時:1993年 4月 10日(土) 10:00〜17:00
 会場:機械振興会館 6階 66号室 67号室(午前中のみ)
 特集:知的 CAI/マルチメディア/認知科学
 共催:電子情報通信学会(人工知能と知識処理研究会),CAI学会

1. 知的教育用アセンブラシミュレーション

渋井二三男(城西大学 女子短大),石井宏(城西大学),竹本宜弘(工学院大学)

 人工知能により,学習者モデル,知的ユーザインタフェース,知的アセンブラシミュレータの各モジュールを学習者の属性,知識レベル,特性(特長)に対応した助言を自動生成する知的教育システムを検討し,その開発の端緒についた.

2. 個別演習形式の集団学習における支援メカニズムについて

波多野和彦(埼玉大学 教育学部)

 本稿では,一般情報教育におけるアプリケーションソフトウェアの学習を対象として,個別演習形式の集団学習を支援する枠組みについて検討している.各々の個別学習環境に関する情報を収集・分析するとともに,学習集団の全体像に基づいて個々の学習環境を制御する方式を論じている.学習者の操作を識別する場面や誤操作に対する修正教育場面に適用する例を扱っている.基本的な仕組みは,既存の LAN 上に配置された個別学習環境と集団支援機が,ファイルサーバを介して,学習進行に関する情報を共有し,学習集団の全体像を各々の学習環境に反映するということである.

3. 日本語の学習を支援するシステム

榎本圭孝,劉軼,伊丹誠,伊藤紘二(東京理科大学 基礎工学部)

 従来の日本語 CAI は,あらかじめ用意された教授シナリオに沿って処理が行なわれることが多く,解答が主として多岐選択的であり,学習者は与えられた問題を解くだけで意欲を持ちにくい.そこで我々は,入力される自然言語の語る「世界」を限定し,学習者は限定された世界の中で自由に文章を作ってシステムからの質問に答え,また,システムに問いかけることができる学習者主導の日本語 CAI を開発している.世界を限定した対話により学習者の誤解・誤答の原因の推定が可能になり,学習者にとっても言語表現と意味の対応が把握しやすくなる.本稿は,このようなシステムを実現するためのインターフェイス部と格助詞の使い方における基本的な誤りを正す機能を持った入力解析部について報告している.

4. UNIX コマンドの学習を支援するシステム −エージェントモデルからのコマンド列生成とその検証−

高橋昌威,土屋繁樹,伊丹誠,伊藤紘二(東京理科大学 基礎工学部)

 本論文では,我々が開発中の UNIX コマンドの学習を支援するシステムにおいて,学習者が希望するタスクから,それを実現できるようなコマンド列を生成する仕組みを付け加えることを提案している.その目的のために,我々はエージェントモデルを中間媒体に使用する.具体的には,システムは学習者に,タスクを実行する際の初期状態と最終状態をわかる範囲で入力させる.するとシステムは,その最終状態を実現するようなエージェントをできる限り検索する.そうして集められたエージェントを適当に並べ,さらに三角表を用いて,エージェントの作用による状態の推移が整合するように別のエージェントを補填していく,次に,コマンド列を解析してエージェント列に変換するプログラムを逆に用いて,このエージェント列の候補を与えることにより,コマンド列の候補を生成することができる.それが失敗すれば,そのエージェント列がコマンド列では表現不可能であることを示す.これら一連のどのフェーズでも,学習者はシミュレーションを通じて,システムと対話することができ,自分の記述を修正したり,捕捉したりすることができる.

5. 受験者モデルに基づく出題を行なう適応型テストシステムの開発

藤原康宏,永岡慶三(神戸大学 発達科学部)

 適応型テストは,受験者の反応に応じて次に出題する項目を決定するテストシステムであり,それによる学力測定の精度の向上を主目的としている.従来の適応型テストは,受験者の理解状態を学力という 1元的な数値で表わし,それを推定することを目的とした.本稿では,評価を行なう領域の内容に対する受験者の理解状態を評価することを目的として開発した適応型テストについて実施例を含めて述べる.本システムは,意味ネットワーク表現された学習領域の構造情報とその構造情報へのオーバーレイモデルで表わす受験者モデルに基づいた出題を行なう.システム運用の結果,従来測定が困難であった受験者個人の理解構造を評価することができ,出題方略における評価要素及び項目の難易度の選択が,効果的に機能していることが確認された.

6. マクロ経済モデルの協調型シミュレーション(エコノディスカバリ)

山本秀人,栗林茂次,国重誠之,小寺沢輝三(コンピュータ教育開発センター),岡本敏雄(電気通信大学)

 マルチメディア,エキスパートシステム,ネットワーク等の技術を適用した教育用シミュレーションソフトウェアを試作した.本ソフトウェアは,第 2次世界大戦後,現在に至る日本経済の仕組みとその推移を学習する.マクロ経済モデルにおける家計,企業,政府に対してそれぞれパソコンを割当て,システム全体を統括するパソコンとでネットワークを構成する.時代背景やシミュレーション結果等を映像,動画,グラフ等で可視化し,電子事典を持ち,ゲームを取り入れたシナリオで展開する.更に,先生が選択した教授方略と模範的生徒の学習過程をエキスパートシステムで支援する.

7. 手続き的問題解決における学習者モデリング (2)

松田昇,岡本敏雄(電気通信大学 大学院 情報システム学研究科)

 本研究は手続き的な問題解決の領域における学習者モデル診断技法の探求が目的とされる.この学習世界では,与えられた課題を解く能力の習得だけではなく,課題を解くために利用された知識そのものに対する理解が重要である.本稿では,定式化された問題解決モデルにおける探索制御知識を,後者の立場での教授を支援するための知識として利用できることを示す.そして,システム自身の問題解決の経験を通して,経験則に基づいた探索制御知識を獲得する枠組を提案する.

8. 漢字熟語学習のための環境型知的 CAI システムの構築 (3)

三好克美,林敏浩,矢野米雄(徳島大学 工学部)

 我々は環境型知的 CAI の枠組みで漢字熟語学習支援システムの構築を行う.本稿ではシステムの概要について述べる.本システムは学習対象者を外国人とし対象領域を漢字 2字熟語とする.本システムは熟語を漢字と熟語の意味構成の基本形式から理解し,また他の熟語と関連づけて効果的な学習を目指す.環境型知的 CAI は学習者が自由に振る舞える学習環境を提供する.学習環境にパズルゲームを取り入れ,パズルに必要な関連熟語の柔軟な検索が可能な知識ベースを備える.環境型知的 CAI は学習者に直接教授せずに学習目標に誘導するシステムの介入をナビゲーションと呼ぶ.本稿ではナビゲーションのタイミングについて考察を行う.

9. 英会話を対象とした環境型知的 CAI システム −学習者の誤り同定とそれに基づく探索学習の実現−

宮本浩伸,岡本竜,矢野米雄(徳島大学 工学部)

 本システムは,学習者主導を重視した教育対象のシミュレーションと,探索学習のためのオペレータを学習環境として提示し,学習者に自由な操作をおこなわせる.探索学習では,学習者にシミュレーションにより提示される対話状況ごとに,関連した知識を伝達する.その知識伝達はシミュレーションにおける学習者の誤りに関する知識を優先することで,学習者の知識獲得における認知的負荷を軽減する.またシステムは探索学習で伝達した知識について,シミュレーションでも誤りの誘導をおこなう.これにより,学習者の理解状態の推定や探索学習で伝達した知識の評価も可能になる.

10. 意味ネットワークとアクター・モデルによる概念学習支援のルール化 −国際投資を例にして−

チア・ブンソン(名古屋商科大学 経営情報学科),磯本征雄,吉根勝美(名古屋市立大学 計算センター)

 本論文では,学習者の理解度に合わせて各学習ステップに最適なフレームを決める学習支援方略をもつフレーム型 CAI の構成について議論する.各々のフレームには,個々に開始条件が付いており,学習者の理解状態が開始条件に最も都合よく合致したフレームが,次の段階の学習対象に選ばれる.この学習支援方略は,アクター・モデルで定式化され,学習者の理解度を教材に関する意味ネットワーク上に記述する.本 CAI は,パソコン IBM 5530Z で実用化し,PROLOG-KABA++ で駆動する.実用面では,国際投資の学習課題のコースウェアに応用している.

11. 対話型物理学習環境 IPE のマルチメディア化

対馬勝英,植野雅之,早野秀樹(大阪電気通信大学),藤井研一(大阪大学)

 学習者に任意の物理的環境の設計と任意の初期条件よりのシミュレーションを許す対話型の力学の学習環境 IPE (Interactive Physical Environment) を開発した.IPE はシミュレートした物理現象をオブジェクティブに記述したスクリプトを用いて理解することができる.この理解を基に学習者の入力した現象理解のための視点に応じた理解を生成に言葉による理解内容を表示できる.このシステムは発見学習を行う教具として開発されたものであり,学習者の主導性を損なわず,教授を行わずに物理に関する試行錯誤を行う知的な環境である.

12. 論理回路シミュレーション

生方俊典(東京都立航空工業高等専門学校),吉田信也(千葉職業能力開発短期大学校),小原栄一郎(大東産商),渋井二三男(城西大学)

 現在の中等教育内容は,知識の詰め込みが中心となっており,既知の事柄を組み合わせて,何かを作るといったことや応用力まで発展させる,といったことは少ない.論理回路に関する授業でも,実際に回路を作り,実験を行い,その結果を次の授業にフィードバックさせるといったことまで行えないのが現状である.このようなことでは,回路がブラックボックス化してしまい,学生の興味をそぐ結果となり,教育効果としては,十分とはいえなかった.しかし,近年,大規模な PLA や CAD ソフトが市販されるようになり,測定機器も充実し,記憶機能も使用できるようになった.そのため複雑な回路まで実験で扱うことが可能となった.これらのことをふまえて,学生にとって,複雑と思える実験の検討を行った.

13. ハイパーカードで BASIC を学ぶ CAI ソフト MacBASIC の制作について

中田平(金城学院大学),三重武美(Pile Driver Project),加藤匠(電子システム)

 中学で平成 5年度から施行される「情報基礎」の教科書は BASIC を基本言語として教えるプログラムを提供している.マッキントッシュは日本語の使用できる BASIC プログラムがないために BASIC を教育する点で不利である.しかし,BASIC は BASIC 言語それ自身を教育するプログラムをもたないため,中学生に BASIC を教育するための教育プログラムはいずれにしろ BASIC で作ることは困難である.われわれ開発チームは,マッキントッシュの HyperCard を利用することによって,BASIC をマッキントッシュ上で実現する CAI ソフトウエアーを作ることに成功した.このソフトは,中学生に限らず,高校,専門学校,大学の基礎教育にも対応可能な言語教育ソフトとしての資格を備えていると確信する.

14. ハイパー・メディアと構造的シラバス −日本語教育機関における夢と現実−

西郡仁朗(東京外国語大学 留学生日本語教育センター)

 来日時には「ゼロ」の状態である留学生の日本語能力を,集中教育で,大学教育に対応しうるものにまで高めることを目標とした日本語教育機関においては,文型・語彙を積み上げていく構造的シラバスを基本とし,直接法による指導が行われている場合が多い.本センターでは近年の留学生の出身国・言語背景や志望分野の多様化や学習の進捗のばらつき等に効率的に対処するため,パソコンを用いた「ハイパーメディア自学自習システム」の制作が開始されている.ハイパー・メディアの特長のうち,メディアの融合性・相互交渉性・情報の拡張性は,日本語教育においても強力な武器となるが,入門期の教材から,無構造性を標榜するのは無理があった.しかし,これは同時に構造的シラバスの効率性に対する問題提議でもある.また,メディアはあくまでメディアであり,現実のコミュニケーションの相互交渉性を超えることはない点に留意すべきである.[紹介するソフト・ウェア:「ハイパードリル初級日本語」「ハイパー漢字字典」「ハイパー初級読み物」「ハイパー中級読解」等]

15. 映像資料データベースのためのデータ蓄積・検索のファジィ論的方法

吉根勝美,磯本征雄(名古屋市立大学 計算センター),石井直宏(名古屋工業大学 知能情報システム学科)

 近年のコンピュータの性能向上によりマルチメディアが注目されているが,中でも豊富な情報を含むことができる媒体である画像を,教材の提示に利用することが効果的であり,過去の莫大な映像資料のデータベース化が望まれている.しかし,同じ画像に見ていても,着目する対象や受ける印象が見る人ごとに異なるように,画像に含まれる情報の解釈には見る人の主観が必ず入るため,この取り扱いが画像データベースにおける重要な一課題である.本研究では,こうした画像に含まれる情報の解釈の多様性をファジィ集合として統一的に扱うことを提案し,これに合わせた画像データベースのデータ構造や,ファジィデータに対する検索技法を定式化した.

16. パソコンを利用した大学工学実験の理解度の評価

茂吉雅典,藤本博(大同工業大学)

 大学電気系学科の授業カリキュラムの一つである工学実験の一テーマ「トランジスタの静特性」を CAI 教育のために光ディスクとパソコンを用いてシステム化した.その目的は工学実験において学生の教育効果の向上を計りさらには指導者の負担を軽減しようとするものである.このシステムを用いて 42人の学生に実験を行わせ,実験結果のデータを収集した.そしてよりよい教材作製および指導方向の確立のためにデータを解析し,評価した.

17. ハイパー科学館 CD-ROM の制作過程

中田平(金城学院大学)

 HyperCard の真の重要性は,オブジェクト指向プログラミングのおかげで,初心者にもプログラミングを可能にさせてくれる点にある.HyperCard は 2.0 (2.1) になってカラーピクチャと QuickTime がサポートされることでマルチメディア・スタンダードのベースの役割を担うにたるツールになった.「ハイパー科学館」はカラーピクチャと QuickTime を駆使したマルチメディア教材として一つの実例を提供することができると考える.「ハイパー科学館」と名付けた CD-ROM には次のデータが納められている.(1) マルチメディア教材「ハイパー科学館」(2) 「ハイパーフランス革命」 v.2.0 (3) 「放送機器の使用法」(4) 「KJMUG 通信」1,2,3 号.とりわけ,「ハイパー科学館」は,1.短時間に科学館の直感的把握,2.全部の建物の展示物の内容をくまなく提示する必要(展覧的網羅性)と同時に,重要な展示物やイベントをピックアップする必要(要点の把握)という矛盾した要求への解答.3.エントランスホールでの科学館の疑似体験.4.小学生,中学生の理科教育のシミュレーション教材というコンセプトで作られた.


第27回研究発表会

 日時:1993年 5月 28日(金) 13:00〜16:00
 会場:工学院大学 28階 第3会議室

1. 情報化の新時代を支える人材とその育成

岡野壽夫(筑波技術短期大学 電子情報学科)

 社会の情報化進展のための人材確保は極めて重要な問題である.求められる情報化人材像については以前から研究がなされ,昭和 62年度には通商産業省より発表された「2000年ソフトウェア人材」に一般的なコンセンサスが得られていた.しかし,最近の情報処理技術の急激な進歩と情報化の進展は,求められる人材の資質を次々と変える結果となった.これに関する同省産業構造審議会情報化人材対策小委員会の平成 4年度中間報告の分析を基に,こうした情報化の新段階を支える人材像はなにか,その育成上には如何なる問題があるかを指摘する.

2. 工学部における基礎情報教育の一例

飛松敬二郎,加藤潔,荒実(工学院大学)

 工学院大学では平成 3年度より全学の 1年生を対象にした基礎情報教育を実施している.本学におけるこの基礎情報教育の現状について報告する.

3. 統合数式エディタの開発と数学教育への応用

内山靖文(工学院大学 大学院 電気工学専攻),三好和憲(工学院大学 電子工学科)

 パーソナルコンピュータ上で,我々が日常使用する表現で数式を表示し,編集できる数式エディタを装備し,入力された数式に対して評価,可視化を行うシステムを開発した.本システムでは初心者向けに全ての機能を数式エディタに統合し,メニューで呼び出せるようにしている.また,機能をライブラリ化し,CAI 教材等を作成する際に容易に利用できるようになっている.この報告では本システムの概要と数学教育への応用について述べる.


第28回研究発表会

 日時:1993年 7月 16日(金)13:00〜16:00
 会場:工学院大学 11階 第7会議室

1. 芸術系大学における基礎専門教育としてのハイパーカード制作

石原亘(京都芸術短期大学)

 芸術系の学科または学部の初年度教育にハイパテキストの制作を導入することは,芸術基礎教育にとって大きな意義がある.ハイパテキストを導入することによって生じる効果とその指導における問題点について論じる.さらに,京都造形芸術大学と京都芸術短期大学における三つの事例について報告する.

2. 工学部における情報専門教育の一例

荒実(工学院大学 電子工学科)

 工学部における情報処理教育は重要である.とくに,電気技術者や電子技術者にとって情報処理の技術なくしては成立しないからである.ここでは 3つの事例を取り上げる.第1は,UNIX システムをベースにした情報処理応用について,第2は,学生実験における電気回路,電子回路の設計とシミュレーションについて,第3は,2部学生のための unix をベースにした計算機言語演習である.ネットワーク環境,EWS 環境,学習支援環境の重要性にも言及する.

3. 論理プログラミングのための非手続き型言語の教育

芹沢照生(工学院大学 電子工学科)

 工学院大学では 1992年度より非手続型言語の教育を行っている.

4. アルゴリズム教育を目的としたチャート型言語システム

山本義一,辻野嘉宏,都倉信樹(大阪大学 基礎工学部 情報工学科)

 一般情報処理教育においても,計算機科学の考え方を教えることを重視するようになってきた.そのひとつであるアルゴリズムについて,従来のプログラミング言語を用いた教育では,教育を始めるまえに,計算機システムの操作方法や言語の細かな構文など本質的でない知識から教えなければならない.この問題は,計算機科学の専門教育の初期教育においても同様である.もし,アルゴリズム教育専用のシステムがあれば教育をスムーズに行なうことができる.そこで,チャートを用いたアルゴリズム教育のための言語システムを試作した.このシステムは X ウィンドウ上で動作する.本稿では,そのチャート型言語システムの設計と実現について述べる.


第29回研究発表会

 日時:1993年 9月 24日(金) 11:00〜16:00
 会場:筑波大学 大学会館 3階 第4会議室
 特集:数式処理

1. 多倍長ソフトを用いた計算機教育

木田祐司(立教大学 理学部 数学教室),牧野潔夫(工学院大学 数学教室)

 理学部数学科の 2年次の学生に多倍長,多項式をあつかえるソフトを用いて計算機の教育をした.あつかった数学の内容はπ,eの各種数アルゴリズムによる 1000桁程度の数値計算,Taylor展開,方程式の数値解法,数値積分,行列の固有値,固有ベクトルなどである.特に多倍長,多項式の能力を十分に発揮できる題材の選択とプログラムの制作に注意した.

2. ファインマン振幅の自動計算

加藤潔(工学院大学 共通講座)

 高エネルギーでの素粒子反応を理解するには,反応の確率を標準模型に基づき摂動論で正確に計算することが必要である.この作業を自動的に行うシステムの開発について報告する.システムは,ダイアグラムの自動生成系,対応する振幅を計算する FORTRAN プログラムの自動生成系,振幅計算に要するライブラリ関数,位相空間での積分およびイベントジェネレーターから成る.高エネルギー物理学のためのエキスパートシステムとして解決すべき問題点についても議論を行う.

3. 数式処理機能付き数式エディタの開発

内山靖文(工学院大学 大学院 電気工学専攻),三好和憲(工学院大学 電子工学科)

 パーソナルコンピュータ上で,我々が日常使用する表現で数式を表示編集できる数式エディタを装備し,入力された数式に対して評価,可視化を行うシステムを開発した.ここでは前回報告した本システムをさらに拡張したものについて報告する.

4. 近似多項式のいくつかの興味深い性質

佐々木建昭(sasaki@math.tsukuba.ac.jp 筑波大学 数学系)

 本稿では,数係数が近似数である多項式を近似多項式という.従来の計算機数学では専ら正確な多項式の演算ばかりが論じられてきたが,応用面では近似多項式が扱われることも多い.さらに,近似多項式あるいは近似べき級数を使用することにより,代数的計算法の柔軟化が可能となる.本稿では,近似多項式の数学的側面に目をあて,それが従来の多項式数学とは大幅に異なり,種々の興味深い性質を持つことを具体例により教育的に示す.

5. 近似代数の制御理論への応用

北本卓也(筑波大学 数学系)

 佐々木により提唱された「近似代数」の制御理論への応用を述べる.近似代数とは,従来常に正確に行なわれてきた代数計算を近似化することにより,計算を柔軟化し応用の幅を広げようとする考え方である.例えば,5次以上の代数方程式の解の公式が存在しないことにより,5次以上の多変数多項式の根は一般に正確には求まらない.しかしながら,近似代数では根を主変数以外の変数のべき級数で表すことにより,近似的に求める.この考え方を制御理論へ応用すると,従来は解けなかった問題が近似的にではあるが解けることを示す.まず,近似代数について簡単に説明し,次にその制御への応用を述べる.そして数値例を示し,最後に結論を述べる.


第30回研究発表会

 日時:1993年 11月 26日(金) 13:00〜17:20
 会場:工学院大学 11階 第8会議室
 特集:遠隔教育とネットワーク技術

1. コンピューター支援による遠隔協働学習におけるメディアのもたらす学習効果

曽根益雄(創価大学 工学部 情報システム学科)

 国際コンピューター通信を活用して,日米の大学生の遠隔協働学習を行った経験などから,メディアの学習者への影響として,異文化の刺激を通して新しい動機付けが見られた.コンピューター支援の遠隔協働学習を実施する上で教育の現場からの基本的課題を検討する.

2. 衛星通信を利用した情報処理教育例

宮副英彦(日立製作所 情報システム事業部)

 衛星通信設備を利用した情報処理教育の実施状況と内容につき述べる.設備の装備の仕方,運用の方法については,日立評論(平成 2年 2月),(財)日本情報処理開発協会 中央情報教育研究所 調査報告書(平成 3年 3月)及び郵政省監修 衛星通信振興協議会他の調査報告(平成 4年 3月)等に報告済であるが,約 3年間の使用実績並びに問題点とその対策方法等について報告する.

3. 三菱電機の衛星教育システム

柏木惇夫(三菱電機 情報システム計画部)

 三菱電機は衛星を利用した全国規模の教育システムを 1990年 7月より実施している.このシステムは現在,1ヶ所のスタジオと 29の衛星教室から構成されている.システムの主要な目的は地理的制約に拘束されない柔軟性のある社内教育を提供することにある.当稿では,システムの目的,教育内容,利用状況及びシステムの特色について記述する.

4. NESPAC による上流工程 SE 教育の展開 −サテライトビジネスカレッジ・システムズコンサルティングコース−

大竹康夫(NEC 総合経営研修所),折出光男(NEC C&C システム営業支援本部)

 本報告では,はじめに NEC における衛星通信を利用した企業内遠隔教育システム「NESPAC」の概要について,教育コミュニケーションの観点から述べる.その上で,NESPAC の映像・音声同時双方向の教育環境の活用事例として,システムエンジニアのための教育プログラム「サテライトビジネスカレッジ・システムズコンサルティングコース (SBC-S)」の概念,カリキュラム,運営などについて紹介している.SBC-S は,システムライフサイクルの初期段階において,SE が顧客の問題状況に対してシステムズアプローチを行い,トータルソリューションを構想化して顧客に提案できる能力を養成することを目的とした,演習・ケーススタディ主体の教育である.

5. 21世紀に向けての SE 像(産構審の答申より)

江村潤朗(日本情報処理開発協会中央情報研究所)

 バブル経済崩壊のあと,これまでの人材育成確保に関する深刻な反省が行われてきた.その結果 21世紀に向けての人材育成のパラダイムシフトが起きている.これと期を同じくして,情報処理技術者の今後のあるべき姿が,産業構造審議会に答申された.その背景と新情報化人材の類型,および育成カリキュラムの体系について検討する.さらに,21世紀に向けての SE的人材のあるべき姿について追求する.


第31回研究発表会

 日時:1994年 1月 21日(金) 13:00〜16:40
 会場:工学院大学 11階 第8会議室

1. コンピュータ版心理学テキストの作成手法の開発 (2) −CTP と書籍型テキストの学習効果の比較−

井原零,河村敦(作陽短期大学 情報処理学科),畑本恵子(広島中央女子短期大学 生活科学科),石原茂和(尾道短期大学 経営情報学科),林春男,坂田省吾(広島大学 総合科学部),山上暁(甲南女子大学 文学部)

 心理学分野における,個別学習者・一斉学習場面における教授者・研究者を支援する環境型 CAI システムとして CTP (Computerized Textbook of Psychology) システムの開発を行ってきた.CTP システムの個別学習機能と従来の書籍型テキストとの学習効果を比較するために 218名の被験者に対し,学習内容の理解度・ユーザフレンドリネステスト・ドキュメント評価テスト・自覚疲労度の 4測度を用いて実験を行った.CTP における理解度は書籍型テキストと同様であり,教材としてのおもしろさ・学習に対する動機付けの点では優れていた.自覚疲労においては,一般的 VDT 作業ほどではないが目の疲れが見られた.

2. Microprogrammed E-MIX によるアセンブリ言語教育支援システムの設計と開発

中嶋卓男,荒木祐一郎,中村良三(熊本大学 工学部)

 Kunuth が提案した仮想計算機 MIX を拡張し,マイクロプログラムエミュレーションができるアセンブリ言語教育支援システムを設計開発した.本論文で紹介するアセンブリ言語教育支援システムは,アセンブリ言語の学習にも利用でき,さらにマイクロプログラムレベルの実行を通してゲートの制御とデータの流れをエミュレートできる.本システムは X ウィンドウ上に C言語で具体化しているので,操作性にも優れ,アセンブリ言語の教育に適している.

3. EWS を用いた計算機実験教育

家永慎太郎,長嶋祐二,芹澤照生,溜淵一博,篠原克幸,三好和憲(工学院大学 工学部 電子工学科 情報工学コース)

 情報系専門学科における計算機教育,とりわけマイクロプロセッサの実験・演習ではソフトウェアとハードウェアとの有機的な関連を持たせ理解させる必要がある.今回,8086 プロセッサ及び EWS 上のエミュレータを併用し,計算機の命令実行過程を視覚的により理解可能な課題を設定した.

4. 高校化学の知的 CAI における入力文解釈機構について

青島弘和,沼野井淳(早稲田大学 理工学部),小西達裕,伊東幸宏(静岡大学 工学部),高木朗(CSK),小原啓義(早稲田大学 工学部)

 知的 CAI の対話インタフェースは,学生にできるだけ自由な発話を許容できることが望ましい.我々はこれまでに,演習問題の解法,対象世界の振舞い,教育方法等,幅広い内容についての入力文を任意の時点で受付け,システムの行動に反映できる対話インタフェースを持つシステムを開発した.しかし,学生の入力に誤りが含まれる事,解釈結果が一意に定まらない事,等の原因で,入力文の意味解釈に失敗するケースがあった.本稿では,上述の問題の解決のために,「緩和・補完・統合・選択」という意味解釈の処理を行う対話インタフェースを提案し,この対話インタフェースのもとで効果的な教育を行う対話戦略の設計とシステム実装の結果を報告する.

5. 日韓作文演習用知的 CAI における利用実験と誤文解析能力の評価

李圭建(早稲田大学 理工学部),小西達裕(静岡大学 工学部),白井克彦(早稲田大学 理工学部)

 本稿では,教育対象語と母国語との文法的類似性を用いた語学教育用知的 CAI システムの構築について述べる.このシステムには,文法の類似性と相違点に基づいた教材知識,誤文解析モデル,指導戦略モデルが用いられている.教材知識は主教材(文法説明文,問題文)と副教材(補助文法説明書,単語辞書)で構成され,学習者がカリキュラムに沿って自由に学習するようにした.誤文解析モデルは学習者が誤った文を入力した際に,学習者の作文過程と両国語の文法的相違点に着目し,誤り原因同定に必要な知識,(1) 表層文字列変形知識,(2) 構文構造変形知識,(3) 日韓意味対応関係知識などを用いて誤りを解析する.指導戦略モデルは検出された誤り原因に基づき,指導戦略を立て学習者にわかりやすく説明を行う.その時,学習者の利用状況は全て保存される.我々は,このシステムに基づいて,日本人の初学者に初等韓国語の作文を教えるための知的 CAI システムを構築し,実際に作文実験を行った.最初,韓国語を全く知らなかった学習者がこのシステムを利用して学習した後,初等韓国語の作文ができるようになった.その際に,学習者の誤りに対して,ここで用いた誤文解析モデルと指導戦略モデルが有効に働いたことを示す.


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