日時:1996年 5月 24日(金)13:00〜18:00
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス A棟 4F大会議室
香川修身,上林彌彦(京都大学 工学部)
遠隔教育システム VIEW Classroom は,ネットワークで接続したコンピュータを介し地域的かつ時間的に分散した教師と学生が行う指導や学習を支援する仮想教室システムである.著者らは,教師が文字・図形・動画で構成されたハイパーメディア教材を学生の画面へ提示して講義し,学生がその上へアンダーライン・記事・リンクを追加してノートを作成しながら受講するシステムを開発中である.現実の講義では,教師は説明をすると同時に学生の表情を観察しており,理解や興味の程度それに質問の有無などの反応を認識して説明の内容や順序を変更している.VIEW Classroom では講義中の学生の反応を抽象化して収集し,学生の状態を把握する作業を支援する機構を導入した.特徴は次の通りである.
(1) 学生は講義中にいつでも容易に「分かった」「説明が速い」のような直接的な意思表示ができる.
(2) ノート作成やマウスの動作情報を収集し,学生の状態を間接的にも把握できる.
(3) 学生の動作情報に一定の評価を与えて教師の画面へ表示し,理解度の把握を容易にする.
(4) 教師と学生へ反応を表示して環境を共有する.
(5) 変化しながら繰り返し利用される教材の特徴を活かし,評価の知識を蓄積する機構を持つ.
香川修身,今井裕之,神谷泰宏,上林彌彦(京都大学工学部)
遠隔教育システム (VIEW Classroom) は,ネットワーク上で時間的・地理的に分散した教師と学生の教育学習活動を協調ハイパーメディアで支援するシステムである.遠隔教育の性質上,学生の数が非常に多くなる可能性が高く,それに伴い教師の作業量は必然的に多くなる.VIEW Classroom では教師のもとに送られてくる多くの質問の中から,教師が回答すべき質問,重要な質問を抽出するためのサポートを考えている.オンライン回答とオフライン回答とで回答の形式を分類し,オンラインの場合は対話回答の相手(質問者)を効率良く抽出して回答する.オフラインの場合は,キーフレーズごとに質問回答が分類された質問回答データベースを用いて,回答作業を再利用するなど回答作業の効率化を目指す.本稿では回答機能の機能仕様とデータベースの構造設計について述べる.
中川さより(nakagawa@tsuda.ac.jp),鈴木悦子,来住伸子,小川貴英(津田塾大学 数学科)
最近のインターネット・ブームにより,計算機の利用者が急激に増えてきており,その利用者に対応するための支援システムが必要になってきている.しかしながら,現在の支援範囲は狭い意味の情報処理教育などに限られている.本計算機利用者支援システムは,特定の場合に限定せず,全ての計算機利用者が問題解決できるように支援することを目指している.利用者が計算機を利用していて問題が起こったら,まず,WWW 上にあるテキストを参照する.それでも解決ができなかった場合には,遠隔の相談員に対して,共有ウィンドウ,共有ポインタ,音声,チャットの 4つの手段を使って相談を行い,問題を解決する.
斉藤俊則(tsaito@crew.sfc.keio.ac.jp),中鉢欣秀(yc@crew.sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科),大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 環境情報学部)
情報化社会の到来が実感されるようになった現在,教育機関による情報教育の充実は急務となっている.慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) においては 1990年のキャンパス開設以来,積極的な情報教育に対する取り組みが行われている.本論はそこに学ぶ現役の学生たちが指摘した情報教育に関する問題点と,それを踏まえて彼らが提案した改善案を報告する.
君島浩(富士通ラーニングメディア)
教育体系の構造的な開発技法の集合を教育システム工学という.本論文は教育システム工学と人事管理・生産管理・情報技術・文章技術などの分野とがどのような関係にあるのかをサーベイする.このサーベイはこれからの時代に必要とされる統合された教育システムを構築することを助ける.
河合和久(kawai@tut.ac.jp 豊橋技術科学大学 知識情報工学系)
いわゆる「情報教育」を行なう中学校での教科「情報」を提案する.「情報」科の具体的な内容は作文教育である.その理念,目標は,情報活用能力の育成であり,情報機器を活用し,思考力と表現力を身につけることを目指している.加えて,報告者が自身の所属する大学で行なっている作文教育例をとりあげる.
河村一樹(尚美学園短期大学 情報コミュニケーション学科)
高等教育機関では,数年前からコンピュータサイエンスの専門教育が実施されるようになっている.一方,初等・中等教育機関では,ようやくコンピュータ教育が部分的に取り入れられ,学習指導要領にもとづいた形で実施されつつある.このような状況にあって,コンピュータと教育研究会では,中等教育機関におけるコンピュータ教育をより拡充するために,『情報』という教科を設置することを検討している.本稿では,そのうちの高校における「情報科学 II」という科目のもとに,コンピュータサイエンス入門教育の概要について述べることにする.この科目では,コンピュータの動作原理をコンピュータサイエンスの立場から,わかりやすく理解させることを目標にしている.そのための具体的なカリキュラム内容について提案する.
大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 環境情報学部)
情報化社会の到来とともに,従来のリテラシ−(識字)教育に代わってコンピュータ・リテラシー教育が必要となる.日本の高校における教科として「情報」を設けることを前提として,その中核となるべきプログラミング教育の理念と内容について,具体的な提案を行った.構造化プログラミングを,問題解決の方法論として用い,問題の定式化,設計,実現,評価の過程を全体として教育内容に取込み,日本語の重要性と表現技法との関連について述べる.
日時:1996年 9月 20日(金)10:00〜18:00
会場:情報処理学会 会議室
共催:日本認知科学会(教育環境のデザイン研究分科会)
佐野洋,在間進,栗田博之(東京外国語大学 外国語学部),峰岸真琴(東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所)
東京外国語大学の視聴覚センターは,1980年に設備更新をして以来,過去15年以上にわたって語学教育に利用されてきたが,すでにセンターの設計概念,設備ともに古くなっており,現代の語学教育のニーズには応じられない.そのため,今年度,視聴覚教育センターの教室設備更新に伴い,VOD やネットワーク設備を導入し,マルチメディア環境を充実させた視聴覚教育室を構築する.これは CALL システムの構築を目指すためのパイロットシステムとして位置付けられる.本学は文系の単科大であり,いわゆる情報リテラシに関して弱者の立場にある.そのため変革が早く激しい情報処理関連技術を駆使した教育システムの設計が容易に行なえる環境にない.試行錯誤的なシステム開発を避け,限られた人的資源投入のもとで設計効率と予算効果を高めるために,一つの試みとして,我々は教育システムの設計プロセスを計画し,システム作成手続きとしての知識を抽出した.本稿では,このパイロットシステムの設計プロセスモデルとモデル手順に沿って行なったシステム設計について述べる.
中嶋正夫(明治大学 情報科学センター),阪井和男(明治大学 法学部),加藤浩(NEC 情報メディア研究所)
学習者がプログラムを構築する過程のアプローチを解析するための手法を提案する.学習者のプログラミング環境として独自のビジュアル言語エディタを用い,プログラミング時の操作履歴を記録した.このエディタは,モジュールの階層的構築を容易に実現でき,トップダウン,ボトムアップのアプローチのプログラミングに柔軟に対応できる.このエディタの操作履歴をもとに,モジュールの生成とパーツの生成の時間的関係,階層化されたモジュールの生成方法,パーツレベルでのプログラムのクローズネスの観点からトップダウン,ボトムアップアプローチの傾向や抽象化,具体化の傾向を数値化した.
齋 直人(itsuki@slab.ntt.jp NTT ソフトウェア研究所)
筆者らは,構造化分析設計技法のソフトウェア開発部門への導入に取り組んできた.開発担当者の多くは構造化技法を未経験であったため,最初に構造化技法の教育を行った,教育の目的はソフトウェア開発への適用である.目的と対象者が限定されているため,教材の構成,研修方法に工夫,改善が求められた.そこで,教材や研修方法の改善を進め,テキストの構成,技法の解説,例題,演習などにおける留意点が明確になった.それは,学習後に実際のソフトウェア開発に構造化技法を適用できるような教材や研修を求める.本報告では教育への取り組みと留意点をまとめる.
川添一郎(大阪大学 言語文化研究所)
漢字学習におけるいくつかの問題について考察することにより漢字学習のメソッド確立を目指す.外国人の日本語学習において漢字はその理解が最も難しい問題である.それは彼等の母国語と日本語の体系が異なることによるがその問題は以下の 2点に集約できる.
(a) 漢字形状の構成要素とその接続関係
(b) 意味との関係を含む発音パターン
これらの問題に関して本稿では Geon 理論を基盤にした接続関係記述法並びに弁別特性を提案することにより解決することを示す.そして新しい漢字学習メソッド確立の問題点について言及する.
鈴木栄幸,加藤浩(NEC 情報メディア研究所),佐々木真理(守山市立守山北中学校)
本報告では,プログラミング協同学習ソフトウェア「あるごありーな」を利用した実験授業のインタラクション分析結果について述べる.「あるごありーな」は,プログラミングを含むソフトウェア作成技術育成を目的とした対戦型相撲シミュレータである.学習者は,力士の動きをプログラム言語を使ってプログラムし,他人の力士と対戦させる.対戦を活動の中心におくことは,強い力士を作ることを共通に志向する実践共同体の形成を支援する.この共同体の中で生徒らは自分の位置,すなわちアイデンティティを確立するともに,ソフトウェア作成技術を身につけていくのである.ビデオ分析結果により,「あるごありーな」が生徒らによるプログラミングの実践共同体の形成・維持を支援すること,学習はその共同体内でのアイデンティティの変容過程として捉えられることが示された.
梅下博史(東京大学 教育学部 学校教育開発学コース)
従来,幾何学において図形表象は演繹的推論の単なる補助にすぎないものとされてきたが,Barwise & Etchemendy は,従来妥当とされてきた証明でも図形表象から自明的に直接知覚される事実が利用されていることを示した.一方,最近の図形ソフトウェアでは,図形を連続的に,しかもその幾何学的関係を保ったまま変形することにより,その連続的変形を通して図形の幾何学的な「不変構造」が直接知覚されることがわかった.ただし,この直接知覚された情報を記述するには「角」の概念の再定義を必要とした.この再定義された角の概念に基づくと,従来の幾何学体系では場合分けをしなければ証明できなかった問題を,場合分けせずにより一般性のある一つの論理で証明できた.
伊藤毅志,古郡廷治(電気通信大学 情報工学科)
本稿では,自立的学習を支援する新しい CAI システムのための基礎研究について説明する.このシステムは,間接指導と自己観察の二つの指導法を組み込んだシステムである.まず,間接指導と自己説明について説明し,実際の教育実践活動の結果をもとに,さらに考察していく.また,これまで提案してきた間接指導に基づいた CAI システムについても説明し,自己観察をこのシステムに組み込んだ新しいシステムの全体像を紹介する.
小柳和喜雄(常盤大学 人間科学部)
マルチメディアとインターネットの教育利用研究が盛んに行われている.これらを用いることで授業や学習自体がどのように変わるのか,理論的・実証的な研究が積み重ねられてきている.このように華やかに研究が進められる中,一方で,忘れられてはならないことは,このようなメディアや情報−通信技術それ自体を学習の対象とする,情報教育の研究である.我が国の情報教育研究は,日本教育工学会でも,この情報処理学会でも積極的に検討が重ねられ,優れた成果が出されている.本研究は,これらの先行研究を参考にしつつも,以下の 3つの点において,情報教育の課題を設定し検討を進めていくものである.1つめは,情報教育と先に述べた華やかに行われつつあるマルチメディアやインターネットの教育利用研究と密接な関係づくり,およびそのカリキュラムにおける構造化が,もっと十分に検討される必要があるのではないかということ.2つめは,情報教育の内容が,情報学や情報−通信技術の基礎的な内容に傾斜していること,またそうであると考えられていることに対して,本当にそうなのか検討すべきであるということ.3つめは,情報教育を推進していく場合,当面の情報−通信技術への対応や成果指向的に,次の世代への情報教育を効率的に考える立場と,情報−通信技術へ挑み,反省的・批判的に距離がとれるように,次の世代の養成や新しい教育の在り方を探求しようとする立場の 2つがある.両者をはっきりと区別して,後者の立場を情報教育としてとるべきではないかということ.以上,3点の課題を探求していくために,とくに,ドイツで主張されている考え方および行われている研究を参考に検討を試みる.
水島賢太郎(mizusima@kwjc.kobe-wu.ac.jp 神戸女子短期大学)
コンピュータを中核とした情報化の進展は,単に実務レベルの革新にとどまら ず,文化そのもののあり方に大きな影響をもたらしてきた.その一つに,コミュニケーションツールとしての電子メールがあるが,そこでのコミュニケーションには,従来の電話や手紙とは異質の諸問題が生まれてきている.ここではそれらの問題の内,電子メールでの対話時に起こる誤解とそれが生起する不安について,状況論的観点から分析した.そして,電子メールの普及した情報化社会でのコミュニケーション教育についての簡単な提案を行う.
日時:1996年 11月 15日(金)12:30〜18:00
会場:豊橋技術科学大学 工学部
荒木直美(s92524na@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 総合政策学部),斉藤俊則(tsaito@crew.sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科),大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 環境情報学部)
公立中学校において行われている「情報基礎」の授業について,中学校の先生と生徒を対象に調査を行った.その結果,コンピュータに対して意欲が高い反面,具体的にコンピュータをどう使っていいのかイメージできないという生徒像が浮かび上がってきた.なぜそのような結果になったのか.どのような問題点があり,それをどう解決していけばいいのかについて考察する.
河合和久(kawai@tut.ac.jp 豊橋技術科学大学 知識情報工学系)
報告者がその所属する大学で行なっている作文教育の事例報告を行なう.その教育理念,目標は,作文(文書作成)を題材に,情報活用能力を育成し,思考力と表現力を身につけることにおいている.作文を行なうための情報機器としては,ネットワークに接続されたコンピュータ(Unix ワークステーション)を使用し,エディタと文書整形処理系,電子メイルと World Wide Web を利用している.作文の四つの工程−1.主題の選定,2.材料あつめ,3.構成表,4.執筆−を追いながら,情報の取扱い,コミュニケーション技術,法・社会・倫理,文章表現技法といった項目を取扱う.
加納裕也(名古屋市立瑞穂小学校),野崎浩成,磯本征雄(名古屋市立大学)
近年,情報通信基盤の整備が進むに伴い,小中学校での義務教育においても,インターネットを活用した情報教育の実現が可能となりつつある.そこで,筆者らは,学校教育現場でのインターネット利用の可能性を探るために,小学校と大学間をダイヤルアップIP接続できる環境を整え,ネットワークの試験的な運用を行ってきた.本稿では,それらのネットワーク環境を活用した教育実践を試みた.具体的には,生徒の課内活動の一環であるコンピュータクラブでの活動事例として,WWW 上でのホームページ作成と絵本作成を報告し,インターネットを活用した情報利用の可能性を考察する.
君島 浩(富士通ラーニングメディア)
中央情報教育研究所が出版したマルチメディア教材開発の標準教科書を説明する.この教科書は教育エンジニアのモデルカリキュラムに基づく三つの標準教科書の一つである.主題の作業の構造を,マルチメディアの構造へ変換するトップダウン開発の作業標準が定義されている.この標準教科書によって,マルチメディア教材の品質・生産性を向上できる専門家を,日本の各学校・企業が育成できる.
加藤義則,伊藤誠(中京大学 情報科学部)
小学高学年から楽しく,遊びながら学べるスイッチ回路シミュレータを試作した.回路作成と同時に実験できるモードレスなシステム構成と,配置や通電時に効果音を出す,等の試みをしている.
澤田芳郎(愛知教育大学),中嶋聞多(信州大学),小幡孝一郎(文教大学),宗澤拓郎(新潟国際情報大学),神沼靖子(帝京平成大学),福井康雄,加藤敏夫(文部省放送教育開発センター),長手源三郎(ヒューマンプレス),浦昭二(新潟国際情報大学)
浦ほか (1993) による大学カリキュラム「情報システム学」の普及に資するため,『情報システム学講義のための映像教材』と題する全 2部のビデオ・パッケージを制作した.第 1部である本作品では事例紹介を交えて情報システムを定義し,あわせてわが国の情報システム史を概観した.そのうえで情報システム学の方向性を提示し,カリキュラムへの関心の喚起を試みた.
澤田芳郎(愛知教育大学),中嶋聞多(信州大学),小幡孝一郎(文教大学),宗澤拓郎(新潟国際情報大学),神沼靖子(帝京平成大学),福井康雄,加藤敏夫(文部省放送教育開発センター),長手源三郎(ヒューマンプレス),浦昭二(新潟国際情報大学)
講義の活性化は大学改革の焦点のひとつとなっている.ここで我々が提案するのは,テレビという“メソドロジー”の講義への導入である.ライター兼キャスター兼ディレクターとしての教員が,具体的事象の映像化を通して抽象概念や論理展開を提示することで,より高度な内容を盛り込める.今後必要になってくるのは,映像素材の蓄積・交換ネットワークである.
雨宮正彦(静岡大学 情報学部)
私たちはいま「高度情報社会」と呼ばれる新しい文明社会の入り口にいる.その文明の基盤は高度な情報ネットワークであり,20世紀の工業社会とは質的に大きく異なっている.その社会の特徴を端的に言えば,人々の価値観の多様化が進み,個人または小組織のネットワークによって運営されれる社会--ということになろうか.工業社会の時代に推進された巨大組織の構築,それを支えるための均質な資質を持った人材の育成は,いまや個人にとっても社会にとってもマイナス要因でしかない.この変化に伴い.教育や学習環境のあり方も当然変わらなければならない.情報教育は,個人が新しい文明社会を生きるために必要な価値観と資質を養う任務を負っている.
八重樫純樹(静岡大学 情報学部 情報社会学科)
自然科学領域としての情報科学・工学と人文学領域の代表ともいえる史学系との教育・研究の学際的な接点について,筆者の研究・教育活動経緯の事例をもととして,いくつかの基本的な整合接点に関する考察を示す.事例としては,過去の史学系研究・データ支援を目的とした“制御論”としての研究開発(事例 A)経緯と,現在,進展中である“データ論”からの土偶資料をもととした考古学資料情報化研究活動(事例 B)をもとにする.これらの事例から,二つの領域のアプローチ視点と問題点,さらに今後の見通しと,いくつかの文系学生の情報教育に関する問題点を指摘する.
日時:1997年 1月 17日(金)13:00〜18:00
会場:情報処理学会 会議室
小出誠,平嶋宗,柏原昭博,豊田順一(大阪大学 産業科学研究所)
従来の力学学習支援システムでは学習者の立式のみから学習者の状態を推定していた.しかしながら,力学の問題解決過程では学習者は立式前に作図を行うのがふつうである.本研究ではその作図の重要性に着目し,作図と立式の両方を総合的に診断することにできる力学学習支援システムを作成した.本来個々の学習者に依存し暗黙的な表現を含む作図を,その暗黙的な部分も明示的に記述させるツールを提供することで学習者の作図情報を学習者個々に依存しない形式で獲得する.作図および立式の診断はオーバレイモデルを用いて行われ,またその結果に基づく指導は作図上および,式と作図の対応をとりながら行われる.
井上勝行,魚井宏高,首藤勝(大阪大学 大学院 基礎工学研究科)
これまでにさまざまなアルゴリズムアニメーションシステムが研究・開発されているが,それらを実際に利用している例は現在でも多くはなく大きな効果があったことが報告されたことも少ない.しかしアルゴリズムアニメーションは,まだまだ未成熟な技術であり実用的な目的を持って開発されたシステムがほとんどないことを考えれば,これは半ば当然のことである.アルゴリズムアニメーションは直観性が高く観察者を惹き付ける効果も大きいことから,例えば学習環境に適応したシステムを用いて実際に即した状態での効果を評価することにより異なる結果が出ることが充分に予想される.このような考えを基に本稿では,アルゴリズムアニメーションの学習環境への効果的な採り入れ方について考察する.その結果アルゴリズムアニメーションには,内容に教科書との一貫性を持たせて対応関係を明確にすること,複数の view を用いる際にはその組み合わせに適した表現を用いること,知識の一方的な提示だけではなく学習者がシステムと対話しながら情報を検索できるようにすることなどが求められるとの知見が得られた.
武井惠雄(takei@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京大学 理工学部情報科学科),丸山健夫(maruyama@takeo.com 武庫川女子大学 文学部 人間関係学科)
IT (Information Technology)教育が,国民皆教育になろうとするとき,“コンピュータ”というものを,どう教えるのがいいのだろうか,という考察である.中等教育段階で,コンピュータがどのように教えられているかを検討した結果,コンピュータそのものの理解,コンピュータが果たす役割の理解,そして,コンピュータに取り組むための導入,のどれをとっても,現状の教科書の表現には幾多の問題があることを指摘せざるを得ない.この問題の沿源を検討してみると,大学・短大においても,同様な事情が顕在化してくることが予想される.ここでは,将来にむけての広義の情報教育を体系づける上で,中等教育・高 等教育の各段階で,コンピュータをどう教えるか,という問題についての考えを述べ,モデルを提案する.
美馬のゆり(川村学園女子大学 教育学部)
コンピュータの教育的利用方法のひとつとして,インターネットを代表とした通信ネットワークの利用がある.筆者は現在まで約 3年間,小学生と大学生を含む若手の科学者とをネットワークで結ぶ「湧源サイエンスネットワーク」という教育実践研究を行ってきた.本稿では,この通信ネットワークを利用した実践を通じて観察された出来事を紹介するとともに,これらを認知科学的,および教育学的な観点から分析し,その考察結果を述べる.そこから,通信ネットワークを利用した教育のあり方について提言を行う.
司会:岡本敏雄(okamoto@ai.is.uec.ac.jp 電気通信大学 大学院)
西之園晴夫(nisinohr@fs.naruto-u.ac.jp 鳴門教育大学)
大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学)
永野和男(nagano@ia.inf.shizuoka.ac.jp 静岡大学)
市川伸一(ichikawa@educhan.p.u-tokyo.ac.jp 東京大学 大学院)
中村直人(nakamura@cs.u-gakugei.ac.jp 学芸大学)
現在,世界的規模で情報教育の必要性が叫ばれ,様々な国においてその努力がなされている.情報リテラシーは,未来社会における新しい学力として認知され始め,慎重かつ着実な履行が求められつつある.本稿では,我が国の学校教育の中での情報教育の今後のあり方に関して,小中高一貫したカリキュラムとしての位置づけを考慮しながら考察する.その中で現行の情報教育の問題と課題を明らかにし,情報教育の実現に向けてさまざまな立場からの要望と課題を述べる.
「変動社会における変革的カリキュラムの構成方略」 西之園晴夫
「情報教育におけるプログラミングの位置づけ」 大岩元
「課題演習を中心とした情報教育の展開」 永野和男
「『人間の情報処理を知る』ための情報教育」 市川伸一
「情報教育と他教科の関連」 中村直人