第44回研究発表会

 日時:1997年 6月 20日(金)13:00〜17:45
 会場:情報処理学会 会議室

1. 招待講演:メディアを軸とした学習環境の構築と運用:慶應 SFC「社会調査法」の試み

妹尾堅一郎(産能大学 経営情報学部)

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) の「社会調査法」の授業で,メディアを活用した授業を試みた.約 250名の学生を約 70組のグループに分け,社会調査法プロジェクトを実際に行なったが,それを,わずか 1名の教師と 4名の SA (student assistant) のみで常時指導していくことを可能にしたのが,メディア環境の有効活用である.これを「メディアを活用した学習者志向の学習環境の構築と運用,ならびに授業形態の開発」と位置づけることが可能である.本論では,現在までの成果とそれに基づく知見を報告し,その含意について考察を行なう.最後に今後の展開について述べる.

2. 意思決定のための情報技術活用 −表計算ソフトを中心として−

高橋三雄(筑波大学 大学院 経営システム科学専攻)

(口頭発表のみ)

3. 情報教育におけるキーボード

大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 環境情報学部)

 情報機器の使用はキーボードによる文字入力が中心である.キーボードはあまりに使うのが易しいために,練習をしないで使いだしてしまうために,多くの問題が生じている.キーボードを見ずに打つタッチタイピングの基礎は 4時間程度の練習で習得でき,約 40時間キーボードを使い続けると,単語の綴を意識しないで打てるようになってくる.約 400時間の打鍵経験で,無意識のうちに,単語を思い浮かべただけで,指が動くようになる.これに対して易しいと思われているマウスは熟年者には使うのが困難な入力法である.また,カナ漢字変換は,完全なタッチタイピングにならないが,2ストローク入力を使えば,英文タイプと同じ入力効率が得られる.

4. グループ活動における思考ナビゲーション・システム

三浦信宏(日本アイ・ビー・エム)

 ネットワーク化が推進されグループによる“問題解決のため”のシステムを企画/設計することのできるスキルとして,コンセプチャル・スキル(創造性を駆使した問題解決能力)が重要になってきた.このスキルを向上させるために,思考支援ツール TLW (The Learner Within) を使用した新しい『思考ナビゲーション・システム』を提案する.TLW は 64 のテーマについて,広い視点からヒントやアイデアを与えるカード形式の対話式ツールである.チェックリストのように機械的に解を導くのではなく,あくまでも個人またはグループの持つ潜在能力を限りなく発揮させるために,“問いかけ”を行ったり,理論や引用文を提示しながら様々な角度から心や頭脳を刺激し,自らの創造力/思考力を高めることを支援するものである.

5. ネットワークボランティアの活用による子どもの学習環境の高度化

五藤博義(学習環境研究所)

 いかに工夫された教材が用意されようと,子どもは時に,どのように解決したらよいか分からない状況に陥る.また,身の回りの多くの楽しいことから離れ,子ども自らが学習を始めることは容易ではない.そのような時,つまずきを解決するヒントを与えてくれたり,学習に取り組むきっかけや動機を与えてくれる他人が子どもの身近に存在することは極めて有用となる. 電子メールの非同期コミュニケーション機能を利用することで,子どもの学習環境の構成要素として,子どもと相互作用を行う,さまざまな専門領域や経験を有するボランティアの仮想的な存在(バーチャルボランティア)を可能にすることは,学習を促進し,高度化する上で有用な手段となる.

第45回研究発表会

 日時:1997年 9月 19日(金)13:00〜17:00
 会場:関西学院大学 理学部 新館第 1 号教室

1. 「出来る」から「分かる感動」への教養情報教育 −人間・社会・日常性とコンピュータサイエンス−

水島賢太郎(mizusima@kwjc.kobe-wu.ac.jp 神戸女子短期大学 初等教育学科)

 コンピュータサイエンス (CS) には,感動的ともいえる面白い概念や考え方がたくさんある.しかし,一方で「CS は教養情報処理としては難しい.直接的実用性が見えにくいので学生受けしない.文科系には無理だ.応用ソフトが充実してきた」などの理由付けによって,CS を無視したソフト操作偏重教育が行われがちだという現実もある.この傾向は,近年の急激な情報処理環境の変化によって助長されているといえる.ここでは,CS の面白さを学生に実感させるため,応用ソフトに埋め込まれた CS の諸概念を掘り出し,人間や社会の文脈との関わりを意識して行った教育実践を報告する.

2. 政策系学部における情報教育の実践と展望

中條道雄,福田豊生(関西学院大学 総合政策学部)

 関西学院大学総合政策学部における,学部開設以来約 2年半にわたる情報教育の実践を振り返って,その成果といくつかの問題点,今後への課題と展望を述べる.本学部では,総合政策学の各分野において種々の問題を解決していくために,コンピュータやマルチメディア機器を有効に活用していく能力は必須であるとの認識に基づき「情報リテラシー」関連の三つの科目を 1年次に必修科目として課している.履修者のほぼ全員がワープロ・ソフトを用いた文書作製,メール,ニュースを使いこなす等の技能を習得し,日常の勉学・研究に活用している.今後情報教育の「質」と「量」を高めていくためには,ハードとソフトのインフラの格段の強化が必要である.特に「ネットワークインフラ」のローカルからグローバルの全域にわたる拡充は喫緊の要件である.

3. ネットワークのリスク管理を考慮した情報教育

武田俊之,雄山真弓(関西学院大学 情報処理研究センター)

 コンピュータ・ネットワークの急激な普及に伴いインターネットをはじめとするコンピュータ利用においてリスクが増大している.今後の情報教育においては,従来のリテラシー教育や倫理教育だけでなく,リスク管理を個人の責任においておこなうことが出来るような内容を組み入れた教育が必要であると思われる.そのためには (1) パスワードやファイルなどは個人が責任をもって管理すべきであるという認識,(2) 資源へのクラッカーなどによる利用権限の違反への対処,(3) 他者の著作物などの知的所有権を侵害しない,などを教える必要がある.

4. 情報処理基礎教育における学習者の状態把握 −Lotus 123 を例にして−

橋本はる美,佐野繭美(摂南大学),岩崎重剛(大阪通信大学 短期大学部),松永公広(摂南大学)

 ネットワーク環境での情報教育の試行から,課題演習における学習者,指導者,演習システムの間の情報の流れを教育実施の視点から見直し,その中で学習者の自主的な学習活動を促進することを目的とする演習補助システムを作成した.このシステムは,学習者の課題演習の実行履歴を一部記録するとともに,課題演習の教育目標に対するアンケートを回収する方法で学習状況を把握しようとする構成が特徴である.この構成をとることによって指導者の授業準備,実施,分析などの負担を少なくすることをめざしている.本論では現在運用している試作演習システムの実践データの一部について分析し,将来の課題演習の指導方法の展望についてまとめる.

5. 創造性の育成と情報教育の展望

対馬勝英(大阪電気通信大学),植野雅之(園田学園女子短大)

 小,中,高一貫の情報教育の必要性は次第に認識されてきたが,それが創造性の育成につながるためには,どのような条件が必要であるかを,教育体験を踏まえて述べた.コンピュータ上のマイクロワールドの持つ教育的な意味について具体的に述べ,この方向での教育システムの開発が必要であることを述べた.また,知識処置技術を用いた知的な対話型学習環境の開発について述べ,多くの教育システムの開発が望まれることを強調した.



第46回研究発表会

 日時:1997年 12月 19日(金)13:00〜18:15
 会場:宮城大学 2F 多目的ホール

1. 宮城大学サイバーキャンパス

藤井章博,河村一樹(宮城大学 事業構想学部 デザイン情報学科)

 宮城県は,1997年 4月に看護学部と事業構想学部からなる県立「宮城大学」を仙台市郊外に開学した.大学における情報処理の基盤として ATM-LAN を導入し,先進的な職業教育とそれに関連する情報技術教育に利用している.本稿では,まず宮城大学の教育内容の概略を述べ,特に事業構想学部における情報処理関連教育の内容およびキャンパスネットワークシステムの具体的な利用形態を述べる.これにより,高速ネットワークを高等教育および研究,学校運営等に活用するための一つのモデルを提示する.

2. 事例研究にもとづくシステムエンジニア養成のカリキュラム

河村一樹(kawamurak@mail.sp.myu.ac.jp),藤井章博 (fujii@mail.sp.myu.ac.jp 宮城大学 デザイン情報学科)

 宮城大学のデザイン情報学科におけるカリキュラムについて報告する.本学科では,システムエンジニアの育成を目標にしている.そのために,事例研究を中心にした科目群によって,カリキュラムを編成している.本稿では,そのカリキュラムを紹介するとともに,いくつかの科目について具体的にシラバスや概要を取り上げる.以上を通して,事例研究にもとづく情報システム教育のあり方の有効性について主張する.

3. 皮膚感覚からはいるリテラシー教育 ─非情報系短大における講義事例─

木村清(kimura@shokei.ac.jp 尚絅女学院短期大学 一般教育)

 学習者の内的世界における広義のリテラシーを,便宜的に,ベーシック・リテラシーとシンボリック・リテラシーに分けて考えることを提案.ベーシック・リテラシーは現実世界をリアリティをもって思考の対象とする能力であり,シンボリック・リテラシーは抽象度の高いレベルの思考をする能力といえる.特に非情報系女子短大での講義においては,まずベーシック・リテラシーを活性化する必要があることを指摘した.そのために,皮膚感覚を意識した講義での事例を紹介する.

4. 人文系大学における情報システムの運用管理教育

佐野 洋(東京外国語大学 外国語学部)

 大学等の教育機関に於いて,情報システムは,教育・研究基盤として機能する.ネットワーク機器やサービスホストと人を効果的に使うことで,利用者が満足するサービスを提供することが目的となる.情報システムの設備機器性能に価値があるのではなく,サービスを提供する教官や学生に利用された時に初めて価値が現れる.本稿では,文科系大学における情報システムの運用に関するケーススタディとして,本学における情報システムの運用段階における情報設備の維持と管理体制について報告し,限られた人的資源とコスト投入の中で,効果的にシステムの運用を遂行するための人的資源確保と人材育成の教育プログラムについて説明する.

5. 絵を使った創造的作文支援システムへのこどもの日常的知識の利用

石井余史子,Bipin Indurkhya,野瀬隆,乾伸雄,小谷善行,西村恕彦(東京農工大学 大学院 工学研究科)

 こどもが複数の絵からお話を作成できるように,絵を利用してこどもの作文作成を支援するシステム,STEP ("Story TElling from Pictures") の改良を次の二点について行った.まず一つめは,こどもの日常生活場面の知識を調べるアンケートを行い,その結果から,こどもの日常生活を表現した絵を作成し,こどもの生活を反映するように,STEP の絵のデータベースの改良を行った.次に二つめとして,こどもが STEP で遊べるように,お話作成支援の方法にジャンニ・ロダーリの提案する方法を利用した.改良後,作文の不得意な小学一年生の男女各一名に STEP で遊んでもらった結果,こどもは複数の絵からひとつのお話を作ることができた.

6. ゼミ形式の共同学習を支援するシステムの設計

木村拓広,佐藤義則,布川博士(宮城教育大学)

 コンピュータとネットワークを使用し,小人数で行われるゼミ形式の共同学習を支援するシステムの設計を行う.このシステムは発表者が HTML で書かれたプレゼンテーションシートを用いて複数の参加者に内容をプレゼンテーションするためのものである.また,司会者によるプレゼンテーションのコントロールが可能であり,プレゼンテーションの内容を記録して別時間にプレゼンテーションの内容を再現することができる.

7. 環境教育におけるマルチメディア教材管理

三国景史(kei@srl.co.jp),佐々木敦史(sasa@srl.co.jp),伊藤佐智子(itos@srl.co.jp 学習情報通信システム研究所)

 環境教育で用いられるような,動画やシュミレーションを含むマルチメディア教材のオブジェクト指向モデルをもつ,環境教育教材オブジェクト管理システム (TOMEE, Teaching Object Management for Environmental Eduation) を構築した.本システムは,教材オブジェクトの永続化と分散化を実現するために,Java で実装した.これによって,教材の部品化とネットワーク上での再利用が実現され,学習者や教師は,Java 対応 Web ブラウザを用いてインターネット経由でどこからでも利用ができる.

8. 米国ノバト高校のコンピュータ導入

君島 浩(富士通ラーニングメディア)

 米国カリフォルニア州マリン郡のノバト高校のコンピュータ導入状況を見学したので報告する.地域主体でコンピュータを導入したこと,従来のカリキュラムをあまり変えずに道具としてコンピュータを導入したこと,そのために各科目の先生が努力してコンピュータを勉強したことなど,参考になる点が多い.1996年と 1997年の 2回,弊社主催の米国ツアーで訪問して得た情報と考察を述べる.

9. 計算機科学の頻出概念の理解を目指した情報リテラシー教育

神村伸一(kami@cc.cstt.ac.jp 東北科学技術短期大学 情報工学科)

 インターネットのホームページ制作を題材にして,情報発信能力の育成と学問的に裏付けのあるリテラシー獲得を目指した情報リテラシー教育を実施してきた.学問的な裏付けとなる基礎概念として計算機科学の頻出概念を見据え,教科目の枠にとらわれず自由な発想ができる卒業研究をとおし,ホームページ制作過程で具現化してきた事例を教材にリテラシー教育を試みた.その結果,(1) ホームページ制作過程には豊富な頻出概念の具現化を見ることができたので基礎概念の教材として適していること,(2) 身近な事例の体験を積み重ねると頻出概念の理解が進むこと,(3) 頻出概念を理解するとリテラシーの質が向上する傾向のあることが判った.

10. 分散環境における協調学習を実現するための学習グループ形成支援システムの研究

関 一也(seki@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京平成大学 大学院 情報学研究科),武井恵雄(takei@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京大学 理工学部)

 協調学習の中心活動は学習者間の対話である.他者と協力して問題解決を行う場面に直面すると,自己の要求を満たす学習相手を選択し,適切な学習グループを形成することが重要となる.コンピュータネットワークを用いた分散環境は,実世界の face-to-face 環境に比べて相互の意志疎通を十分に行うことが困難なので,学習相手の選択を助ける支援機構が必要である.本論文では,分散型の協調学習支援システムにおいて,学習グループの形成に学習者の意志の反映を可能にするシステムを構築し,学習者の意志の反映が学習効果の向上に繋がること,特に,学習者の“嗜好性”に基づく学習相手の選択を許すことが重要であることを示す.



第47回研究発表会

日時:1998年 3月 20日(金)13:30〜17:20
会場:情報処理学会 会議室
共催:日本認知科学会(教育環境のデザイン研究分科会)

1. 国語教育における学習支援ツールとしてのコンピュータ活用 -「要約」活動への対話的支援の実際から-

山下俊幸(VZF11326@niftyserve.or.jp 横浜国立大学 教育人間科学部 付属横浜小学校)

 本報告は,国語科学習開発への状況論的アプローチの一環として,コンピュータを学びを生成する学習支援ツールとしてとらえ,これからの国語科学習の可能性のひとつの姿を探ろうとした試みである.
 国語教育へコンピュータを積極的に導入する意義は,コンピュータが「情報力」とコミュニケーション能力を育てる学習支援ツールとなるということである.(1) コンピュータは学びを相互構成する資源であり (2) 学習支援ツールとしてのコンピュータは (3) テキスト,自身,他者との“対話”を促進する.国語科教育の「要約」指導を取り上げ,子どもたちがコンピュータの主体的で目的的な活用を通して,自身の言葉の学びを創りあげることを可能とする学習デザインについて考察を加えた.

2. 高校生のための情報表現教育

小林修(kobayashi-osamu@personal.email.ne.jp)
大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應大学 環境情報学部)
武井惠雄(takei@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京大学 理工学部 情報科学科)

 中等教育における情報表現教育の在り方について提案する.情報教育には,コンピュータの教育利用の立場とコンピュータ自体を教え情報活用能力を育てる立場があるが,両方に立脚すべきであり,この考え方に基づき,教育現場の実状に配慮して,高等学校情報科のカリキュラムを提案する.

3. 慶応 SFC のテクニカルライティング講座

君島 浩(富士通ラーニングメディア)

 私は慶應義塾大学藤沢湘南校舎のテクニカルライティング講座の講師陣の一人として講座を設計し,実施した.私の講座は世界標準のテクニカルライティング講座の日本語版である.文書工学手法と段落作成法とを合体させた.本講座は教育を効率化し,作文も効率化する.このような世界標準の作文教育は翻訳や国際教育を容易にする.

4. オブジェクト指向を意識した応用ソフト教育

水島賢太郎(mizusima@kobe-wu.ac.jp 神戸女子短期大学 初等教育学科)

 大学における一般教育としての応用ソフトの教育であっても,その基礎にはコンピューターサイエンス (CS) やソフトウェア工学の成果を置かなければならない.このことを理解し,最近,CS の諸概念を取り込んだ応用ソフト教育の実践報告が見られるようになった.しかし,あいもかわらず単なる使用法の操作主義教育が蔓延している.そこで,学生にとって一見分かりやすく見えるが操作教育を教育効率の面から考察した.その結果,オブジェクト指向を意識した応用ソフト教育という方法が見出せたので実践した.この試みは,CS の諸概念を掘り出した教育実践報告でもあまり見られないもので,未だ試行錯誤の段階であるが,教育効果はある程度評価できると考えられる.さらに,この方法の問題点が,実は既成の応用ソフトの設計の問題と深く関係していることもわかった.

5. プログラミング学習を支援する言語処理系「NB2」の設計

橋本裕,早川栄一,並木美太郎(東京農工大学),高橋延匡(拓殖大学)

 開発用の処理系をプログラミング教育に使用すると,(1) 機能が多すぎる,(2) 概念や文法は既知であるとして設計させている,(3) 評価のためのデータ収集が難しい,(4) ターンラウンドタイムは問題にされていない,という問題がある.本稿では,その問題を解決するためのプログラミング教育用の言語処理「NB2」について述べる.この処理系は,プログラミングに必要な基礎概念,すなわち制御構造やデータ構造,言語構文,計算量の学習支援機構を持っている.特にプログラミングをしている時は実行時よりも編集時に学習支援機能が必要になることがある.そこで,編集時と実行時に統一的にそれらの学習支援を行えるように設計した.


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