第48回研究発表会

 日時:1998年 5月 28日(木)10:00〜17:00, 29日(金)13:00〜15:00
 会場:総合研究大学院大学 1Fセミナー室,2F講義室
    フロンティア領域合同研究会

1. パソコン LAN システム導入による情報処理教育の成果

塚本邦昭,中村宏敏,森下博行(芦屋大学 教育学部)

 本学では経営者 2 世の養成および教員の人材育成のためにローカルエリアネットワーク (LAN) で接続したコンピュータを介し教師と学生が情報教育を行うための教育システムであった.高度なネットワーク環境で初心者に視覚で理解できるグラフィカルユーザインターフェース環境で学生が不安や不快感を与えない快適なコンピュータ環境を実現し,コンピュータの発展方向にあった利用環境でネットワーク利用の基本を体験的に学習を行うことができた.しかし,現代でのコンピュータ技術の急速な流れの中で使用技術の主流であるマルチメディア処理技術を扱うため,従来導入したコンピュータシステムは性能上の多くの制約を受け,テキスト(文書),動画,音声等が同時に扱うことが非常に困難になっていた.コンピュータ教室が,阪神大震災により本学本館とともに崩壊し困難を極めたが本館が再建され第 1 コンピュータ教室 (NEC PC98 40台),第 2 コンピュータ教室 (NEC PC98 20台) を WindowsNT サーバで接続しネットワーク型教育システムを導入し,インターネット,電子メール,マルチメディアを扱える情報教育環境が整った.

2. Java による自己表現能力の育成

斎藤俊則(tsaito@crew.sfc.keio.ac.jp),中鉢欣秀(yc@crew.sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科),脇佳代子(t95009kw@sfc.keio.ac.jp),大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 環境情報学部)

 我々は Java 言語を用いた初学者向けプログラミング講座のカリキュラムを設計した.このカリキュラムは実際のソフトウェアの開発工程に沿って設計されている.それによって学習者は学習する技術や概念が現実的にどのような場面で有効になるのかを理解・納得しながら学習を進めることができる.またそれらをコンピュータ上での問題解決のための表現方法としてとらえながら学習を進めることができる.このカリキュラムは慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程で現在実施されている.

3. 表現教育における効率性と確実性の追求 -日本語教育システムの開発を例として-

岩崎美紀子(岩崎言語教育プログラム開発),大岩元(慶応義塾大学)

 高度情報化社会,インターネットの時代を迎え,表現能力,特に英語で話したり,書いたりできる人材の育成が急務であるにもかかわらず,日本の英語教育は残念ながら未だにその任を期待できる状況にない.3年もの義務教育期間がありながら,その間に簡単な会話能力さえ身につけさせることのできない非効率性,非確実性はぜひとも改善の必要がある.本稿では,少なくとも日本語教育においては最短 24 時間で文レベルの表現能力を身につけさせることが可能であることを示し,その文法理論や工夫の数々を紹介することによって日本人の英語教育法改善の可能性と方向性を探る.

4. 留学生のための日本語学習支援システムの設計と試作

坂東宏和,澤田伸一(東京農工大学 工学部 電子情報工学科),深尾百合子(東京農工大学留学生センター),中川正樹(東京農工大学 工学部 電子情報工学科)

 本稿では,留学生を対象とした「日本語学習支援システム」について述べる.本システムは,ディクテーション練習を目的とした「平仮名ディクテーションツール」と,書き取り練習を目的とした「平仮名・片仮名練習ツール」「漢字練習ツール」で構成される.これら3つのツールは,できる限り同一のインタフェースで学習できるように設計した.これにより学習者が操作方法を覚える手間を減少させ,聞き取り,書き取りの学習に集中することができる.また教師用の教材編集ツールを備え,コンピュータの操作に習熟していない教師でも手軽に教材作成できるように配慮した.現在本学留学生センターでは,本ツールを使い始めている.実用的評価が今後の課題である.

5. FJK '98 全体パネル 「人とコンピュータ」

司会:松山隆司(京大)
松本裕治(奈良先端大)
橋田浩一(電総研)
久野義徳(阪大)
武井惠雄(帝京大)
山田奨治(国際日本文化研究センター)
平賀 譲(情報大)
中川聖一(豊橋技科大)
森 亮一(神奈川工科大)

「コンピュータは人の言葉を理解できるようになるのか (NL)」  松本裕治
「コンピュータは人と同じような知能を持てるのか (ICS)」    橋田浩一
「コンピュータはものを見ることができるようになるのか (CVIM)」久野義徳
「コンピュータに人の教育はできるのか (CE)」         武井惠雄
「コンピュータで人文科学がどう変わるか (CH)」        山田奨治
「コンピュータによって音楽の世界はどう変化してゆくか (MUS)」 平賀譲
「人とコンピュータの対話はできるようになるのか (SLP)」    中川聖一
「人間社会とコンピュータ (EIP)」               森亮一

6. CPU とアセンブラ授業のための合否判定支援システム

渡辺博芳,荒井正之,武井惠雄(帝京大学 理工学部 情報科学科)

 本論文では,COMET/CASL を教材とした CPU とアセンブラ授業において,提示した課題に対して学生が作成したプログラムの合否判定を支援するシステムの実現方法を提案する.ネットワーク環境に構築された学習者のプログラムを判定するシステムは,通常の演習授業においてはもちろん,宿題の提出や遠隔授業における合否判定支援ツールとして用いることも可能である.プログラムの合否判定処理は,プログラムの動作の評価とプログラムの認識の 2つの処理によって行う.動作評価処理ではあらかじめ用意した複数のテストデータに対する動作を評価する.一方,プログラムの認識処理では一般化表現で記述された解答例プログラムと学習者のプログラムの照合を行う.本論文ではこのような方針に基づく合否判定支援システムの実現方法の詳細を述べる.本システムを用いて少人数の授業を実験的に行ったところ,授業での実用が可能であり,教員の合否判定タスクの負荷を大幅に減少できる見通しを得た.

7. IS '97 とラーニングユニット- 講義教材設計のために-

神沼靖子(前橋工科大学 情報工学科)

 情報システム専攻の学部用カリキュラム IS '97が,ACM,AIS と AITP によって 1997年に作成された.このモデルカリキュラムには 5つのカリキュラム提示エリアがあり,さらにカリキュラム提示エリアは 10 のコースからなっている.そのコースは 127 のラーニングユニットに基づいて作成され,ラーニングユニットは情報システムの知識ボディの要素から導き出されている.情報システムの知識ボディの主な内容は「情報技術」,「組織概念と管理概念」,「システムの理論と開発」から構成されている.そこで,このモデルカリキュラムの概要を示すとともに,このコースの構成要素であるラーニングユニットとその講義への活用についての考えを述べる.

8. コンピュータと教育研究会における研究動向の分析

河村一樹(kawamurak@mail.sp.myu.ac.jp 宮城大学 事業構想学部)

 昭和 63 年に設立されたコンピュータと教育研究会は,今年で 10年を経過したことになる.そこで,本研究会の研究動向について,研究報告の内容をもとに分析することによって,それまでの「コンピュータと教育」研究に関する変遷を明らかにするとともに,この 10年間の研究会の歩みと研究成果の動向について考察する.

9. パネル討論「21世紀の情報教育のあり方について−初等・中等教育への提言−」

司会:河村一樹(kawamurk@mail.sp.myu.ac.jp 宮城大)
大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶大)
武井惠雄(takei@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京大)
水島賢太郎(mizusima@kobe-wu.ac.jp 神戸女子短大)
駒谷昇一(komaya@po.ntts.co.jp NTTソフトウェア)
君島浩(富士通ラーニングメディア)

 高等教育期間における情報(処理)教育は,すでに定着した感がある.これに対して,初等・中等教育期間における情報教育は,まだ部分的にしか実践されていないようである.というのも,1989年度に改訂された学習指導要領にもとづいて情報教育が行われているが,いろいろな面で問題を抱えているのが現状である.このため,各教育現場では,当初に想定していたよりも情報教育が受け入れられていないといえる.一方,2003年度には再び学習指導要領の大幅な改訂が行われようとしている.これは,21世紀に則した新しい教育体系の確立とその実施を主眼としている.その中で,情報教育に関する部分も大幅に強化される予定である.以上のような状況にあって,我々コンピュータと教育研究会では,勢力的に初等・中等教育機関における情報教育のあり方に関して検討を進めている.そこで,今回は,その検討内容を報告するとともに,公開討論の場としてパネルディスカッションを企画することにした.

「21世紀の情報教育のあり方について」      大岩 元
「初等・中等教育における情報教育実施上の諸問題」武井惠雄
「情報関連教育担当教員の心のあり方」      水島賢太郎
「21世紀の情報教育のあり方について」      駒谷昇一
「21世紀の情報教育のあり方について」      君島 浩



第49回研究発表会

 日時:1998年 7月 31日(金) 10:00〜16:30
 会場:宮城大学 2F多目的室

1. 教育用コンピュータシステムの運用管理に関する研究 -学部内 PC クライアントマシンの運用管理-

遠藤教昭,五味壮平,白倉孝行,高橋勝彦,進藤浩一(岩手大学 人文社会科学部 情報科学)

 これまで数年間,学部内 PC クライアントマシンの運用管理を行ってきた経験を基に,今後の大学における PC 運用管理のあり方に関して考察した.円滑な運用管理のためには,納入業者においては,信頼性の高いハードウェアの供給や,大学側に負担をかけないハードウェア保守体制の確立が必要である.大学管理者側においては,トラブル発生に備えたユーザー管理体制の確立が必要である.また,今後のクライアント OS には,もっと洗練された管理ポリシー(ユーザーによる設定変更などの制限)の付与機能,ファイルシステムの確実な保護機能,およびシステムとアプリケーションのフルバックアップ機能が不可欠である.

2. 教育向け対話型電子白板の複数台連携システムの試作

櫻田武嗣,中川正樹(東京農工大学 工学研究科 電子情報工学専攻)

 対話型電子白板をネットワークで接続することにより複数台連携させたシステムを設計し,プロトタイプを作成した.対話型電子白板を複数台並べて使用することで,黒板と同等の大きさを確保できた.情報処理の利点を生かし,画像・ビデオクリップ提示機能やアプリケーション呼出し機能,また,電子白板の表示内容のスライド機能などの新しい白板の使用方法を提供した.画像を送る衛星放送授業などとは違い,電子ペンで書いたストローク情報を送るので 10Mbps のイーサネットなどでも十分遠隔授業ができる環境を提案した.

3. 文系大学での CS 基礎概念を意識した情報リテラシー教育

神村伸一(kami@cc.cstt.ac.jp 東北科学技術短期大学 情報工学科),安江正治(m-yasu@ipc.miyakyo-u.ac.jp 宮城教育大学 教育学部)

 1997年度後期から非常勤講師として文系大学の一般情報処理教育科目を担当する機会を得た.筆者は 1995年度以来,理工系短期大学においてコンピュータサイエンスの基礎概念(CS 頻出概念)を見据えた情報リテラシー教育の研究に取り組んできた.そこで理工系短期大学における情報リテラシー教育の経験を活かし,文系大学の学生を対象に CS 頻出概念を意識した情報リテラシー教育を試みたので報告する.

4. 新しい時代に即したデジタル教育課程のイメージ

八田 茂(hatta@r.recruit.co.jp リクルート 新規事業開発室)

 弊社では,長年に渡って「企業の人材採用と教育」の支援事業を行ってきました.「激変する社会環境の中で求められる人材」と「現在の学校教育から輩出される人材」のミスマッチと対峙する中で,「新しい時代に即した教育課程」構築の必要性を痛感し,21世紀に求められる能力に則りデジタルテクノロジーを活用した教育システムを考えました.
既存の「教科書主義教育」から「テーマ志向教育」への転換,そして「見つける力」「考える力」「魅せる力「コミュニケーションする力」の 4 つの能力を開発しながら,子供達の「自信を醸成し自己の生成・成長を促す」事を目標としています.具体的には,現在の教科にかわる新 9 科目 (Logic, Communication1/2, DataGathering, simulation, RolePlaying, Presentation1/2/3) を設定し,教育用の各種ゲームソフトを教材として活用することにより「面白くて夢中になる授業」の実現を目指しています.

5. 中等教育における情報教育 -コンピュータ・リテラシー-

大岩元(ohiwa@sfc.keio.ac.jp 慶應義塾大学 環境情報学部)



6. 中等教育における情報教育 -コミュニケーションとリテラシー-

武井恵雄(takei@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京大学 理工学部 情報科学科)

 2003年を目途として進められている高校普通科の新教科「情報」の置かれるべき位置づけとその教科内容について述べる.情報教育の内容は,情報関係者がナイーブに考えているよりもずっと多くの期待が持たれており,それに応えることができるならば,従来,リテラシー中のリテラシーとしての地位を保ってきた国語,算数に並ぶものとしての地位を経て,いずれそれに替わるものとなる可能性がある.それは,情報が人と人とのコミュニケーションに関わるという本質的なことからくる総合性のためである.本研究では,コミュニケーションに関わる部分に重点をおいて,情報教育の在り方について考察し,報告する.

7. 高等学校「情報」科目の教科書案 - 情報B (2)「プログラムとは何か」および情報C (2) -

和田勉(長野大学 産業情報学科)

 情報処理学会情報処理教育委員会・初等中等情報教育委員会での,高等学校に新設される「情報」教科のあるべき内容を示すことを目的としたモデル教科書執筆プロジェクトの一部として,執筆の一部:情報B (2)「プログラムとは何か」および情報C (2)「複雑なプログラムの実現」が私に割り当てられた.これを受けて執筆した初稿の要約を示す.これに対し今まで,タートルグラフィックス,LOGO,指導の手法等に関し批判・意見がよせられた.それらと,それに対し私が思うところ等を述べる.

8. 高等学校「情報」科目の教科書案 - 情報C (1) 「情報の表現」執筆の意図とねらい -

水島賢太郎(mizusima@kobe-wu.ac.jp 神戸女子短期大学 初等教育学科)

 2003年に新設される高等学校「情報」は,情報A,情報B,情報C という 3 つの分野で構成されることが決まっている.しかし,各領域の具体的な部分の詳細は決まっていない.そこで,情報処理学会は,具体的な内容の試案として提案している.現在,その試案に従って情報C の第 1 章「情報の表現」の部分の見本教科書を書いているが,その目標は情報化社会の本質に関わる「情報の 2 進デジタル表現」の意味と意義を示すことにある.この目的を果たすため,文字や数字,そして絵画といったものと対比を通して,2 進デジタル表現の本質に迫るというやり方を取ることにした.

9. 高等学校「情報」科目の教科書案 -情報の視点からの「問題の把握」とは-

神沼靖子(前橋工科大学 情報工学科)

 従来,「問題解決の過程」として,定式化,設計,実現,評価があげられてきた.しかし,ここで言う「問題解決とは何か」は,簡単に説明できる概念ではない.そこで,いわゆる問題解決を,情報システム開発における問題と対応づけて,「問題解決の過程」を議論する.情報システムの開発では,システムの「目標」を明確にして,それを達成する手段を考えるために,目標が達成されていない現行システムの状況を表現することから始める.これは「問題を把握する」ための行為である.したがってまず,「問題を把握する」という行為を分析し,その上で問題解決のプロセスを説明する.

10. 高等学校「情報」科目の教科書案 - 情報B (1)「コンピュータの構成」-

河村一樹(kawamurak@mail.sp.my.ac.jp 県立宮城大学 事業構想学部)

 高等学校普通科に新設される科目「情報 B」の教科書として,第 1 章「コンピュータの構成」の内容について検討した.コンピュータのアーキテクチャに相当するカリキュラムであり,コンピュータの概念モデルからコンピュータの製品へという展開を試みた.


第50回研究発表会

 日時:1998年 11月 13日(金)10:00〜17:30
 会場:関西学院大学 図書館 図書館ホール

1. WWW を用いた新しい数学教育の試み

丹羽時彦(関西学院 高等部),雄山真弓(関西学院大学)

 これまでの数学教育は,教師が,学習者に解説を行い,演習をさせることによって理解度あげる方法で行われてきた.学習者に分かり易く,かつ,理解度を高める効果的教授法はどのようなものか,学習者の理解度を高める補助教材はどのようなものか,さまざまな理由で,教室での授業を受けられない学習者をどのように教育するか等は,教員にとっては大きな課題である.本研究の WWW を用いた数学個別学習プログラムは,筆者の教育経験から,学習者の理解度を高めることを目的とした補助教材である.プログラムは,HTML,Java,LaTex などを使って作成した.内容は,数学 I の分野である.本教材を利用した教育実践の効果と学習者の反応等について述べるとともに,今後の開発方針についても述べる.

2. ネットワークを利用したリテラシー教育

田中裕(tanaka@kobe-yamate.ac.jp),渡辺卓也(takuya@kobe-yamate.ac.jp 神戸山手女子短期大学 生活学科)

 神戸山手女子短期大学では,1996年後期よりネットワークを利用したリテラシー教育を行っており,97年度からは 1年間の必修教育となった.教育システムとしてネットワークで個別学習ができるものを目指したが,いろいろな課題が出てきている.この研究ではシステムのハード面よりもソフト面の問題に焦点をあてて議論する.教育効果の面から見れば,必ずしも満足のいくものではなかった.その原因の一つは個別教材システムが個々の先生の教材面での変更の自由を完全に保証しなかったこと,個別学習システムが,先生の指導面の力,特に感情面への教育効果を軽視していたことにある.なお,このシステムで得られた学習履歴データの分析,及び個人認証に関連するパスワードの問題についても議論する.

3. 総合コース 618「インターネット」の内容と教育効果

雄山真弓(関西学院大学),高田茂樹(岐阜聖徳学園大学)

 関西学院大学では,全学開講の総合教育科目を「総合コース」と名付けて毎年 20科目以上提供している.総合コースの目的は,専門分野にわたって 1つの共通主題を設定し,それに関する多面的で総合的な知識を提供するものである.総合コース 618 インターネット「今,ネットワーク社会で何が起こっているか?」は,その 1つであり,1997年の春学期と 1998年の春学期の2回開講した.受講の対象は全学生で半期終了科目(2単位)である.内容は,インターネットの仕組みや通信の基本概念,ネットワーク上で,今何が行われているか?,また行われようとしているか?,ネットワークを使う上での情報作法や著作権の問題などについて,様々な角度からインターネットをテーマに授業を展開した.講師は,大学から 5人,企業から 5人である.企業からの講師は,実際にインターネットを使って,新しい社会の仕組みの構築を行っておられる方々である.学生の受講希望は多く,教室の大きさの制限で設けた定員(272人)を越える学生が申し込んだ.本報告では,このユニークな授業の内容と学生に与えたレポートの課題その反応結果をふまえて,総合コース 618 がどのような教育効果をもたらしたかについて述べる.

4. ネットワークリテラシー教育のシラバスと教材研究

有賀妙子(京都芸術短期大学 ビジュアルデザインコース) 吉田智子(京都大学 総合人間学部)

 インターネットの特性を知り,その可能性と限界を深く理解,考察した上で,自らの問題解決にネットワークを利用する力をもつことは,学部学科に関係なく必要なことである.情報リテラシー教育からインターネットの活用を中心にした部分を分離し,独立した科目を設計した.そしてその教育内容と具体的な演習例を検討した.

5. 初等中等教育における情報倫理教育のあり方について

辰己丈夫(tatsumi@mn.waseda.ac.jp),原田康也(harada@mn.waseda.ac.jp 早稲田大学 メディアネットワークセンター)

 初等中等教育に情報関連教科・科目が導入されることが決まり,その内容についての議論が始まっている.その中でも特に,「情報倫理」と呼ばれる,想定外の利用が原因となるマナー・エチケットなどに関連する教育方法に対する関心は大きい.本論文では,早稲田大学メディアネットワークセンターで今までに生じた,「情報倫理」上の問題を取り上げ,それらの原因を分類すると共に,「情報倫理」と言う言葉で呼ばれている対象がどのようなもので構成されるべきであるかについて議論する.この議論を前提にして,初心者のための情報倫理教育のあり方と,それを担当する教員のための研修プログラムのあり方を提案する.

6. 大学の文科系学部におけるプログラミング教育の試み

佐野洋(東京外国語大学 外国語学部)

 理工系学部を中心として多くの大学で一般情報処理教育が実施されている.社会全体に高度の情報化が進み,本学のような文科系単科大学においても,キャンパスネットワークを始めとした情報システムが導入されている.人文科学や社会科学系の学生にあっても情報処理に対する教養習得が教育に求められている.情報システムは,教育や研究基盤として機能するが,情報システムの設備機器性能に価値があるのではなく,ユーザーに効果的に利用された時に初めて価値が現れる.利用者の目的,要求,学習特性等は組織毎に違いがあり,よって,情報システムの設備充実以上に,実施すべき教育理念を個々の組織で明確にすることが肝要となる.本稿は,文科系大学における情報教育のケーススタディとして,本学におけるプログラミング教育の中間結果について報告する.

7. プログラミングを通した論理的思考の外在化の実験

上田信行(甲南女子大学),古堅真彦(国際メディア研究財団)

 本発表は「プログラミングを学ぶ」ことの教育的意義を検討するために行ってきた実験的ワークショップの実践報告である.プログラミング活動における内省的認知の重要性に着目した「Reflective Design」と Java言語を使って reactive な作品づくりを可能にした「Playful Design」の 2つのワークショップを紹介する.これからの情報教育に必要な学習環境デザインへの一つのアプローチとして提案したい.

8. 問題解決から導くプログラミング教育法法の案

和田勉(ben@nagano.ac.jp 長野大学 産業情報学科)

 情報処理学会情報処理教育委員会・初等中等情報教育委員会での,高等学校に新設される「情報」教科のあるべき内容を示すことを目的としたモデル教科書執筆プロジェクトの一部として,情報B (3)「情報処理の定式化とデータ管理」の後半の執筆を行なった.ここでは章の前半の部分での陸上競技大会を例にした問題の発見・分析等を受けて,その一部を「各競技へのコース割り当て問題」として取り出し,これの解法を探る過程でアルゴリズムやプログラミング的な考え方へ導くことをねらった.本稿ではこの教科書案を紹介し,これの試験的利用を踏まえての,この種の教えかたの長所と欠点,適切な用い方に関する考えを述べる.

9. 高校情報科におけるネットワーク教育の内容と構成

久野靖(筑波大学 大学院 経営システム科学専攻)

 2003年から新設される高等学校の情報科においては,「情報 A」「情報 B」「情報 C」の 3 つの科目が導入される予定である.その中でも「情報 A」はその内容が「コンピュータやネットワークなどを活用して情報を選択・処理・発信できる基礎的な技能の育成に重点を置く」とされており,多くの高校において開講されるものと考えられる.本稿では,上記の内容を具体的に教科として構成するに当たり,どのような問題があり,それに対してどのような配慮が必要かについて検討する.

10. 宮城大学における小・中学生を対象にした情報教育の試み

斐品正照,河村一樹(宮城大学 事業構想学部)

 宮城県は将来の情報分野を担う人材育成の一環として,県立宮城大学のコンピュータ実習室において,宮城大学教員による小・中学生を対象にした情報教育を実施した.我々は,2003年の学習指導要領の改訂を考慮し,高校の「情報」および中学の「情報基礎」の必修化という流れの中で,どのような教育をすれば効果的なのかということについて,今回の機会に試みた.この研究は,短期間の日程で,その間に完成できるようなコンテンツ制作にしぼったカリキュラムの実施と,宮城大学生 SA (Student Assistant) を多人数採用した集団指導体制の実施,及びその課題作品の評価について,教育実践の 1つのモデルを構築しようとするものである.

11. 情報倫理の言葉遣い

君島浩(富士通ラーニングメディア)

 初等中等教育に情報倫理の教育を導入しようという案がある.本稿は情報倫理とはどんな範囲を含むのか,情報倫理の教育は必要なのか,という問いかけをする.具体的には,倫理の中に技法や法律を含めるのか,情報倫理の教育は従来の通信手段や有体財産についての倫理教育が含んでいるのではないかという問いかけである.

12. 情報ネットワーク社会におけるコミュニケーション

小林修(kobayashi-osamu@personal.email.ne.jp)

 現在進展しつつある情報ネットワーク社会において必要となるコミュニケーションの資質を考察する.始めに,今後インターネットの社会に与える影響が,これまでの情報化とは異なり,社会参加の形態や世論形成の過程を地球規模で根底から変えてしまう可能性を指摘する.そして,そのようなネットワーク社会において繰り広げられるコミュニケーションの特性である相互編集性について述べ,それに対応するコミュニケーションの資質について考察する.

13. 北米における情報倫理教育の現状

中條道雄(関西学院大学 総合政策学部)

 情報倫理教育の必要性と重要性が近年ますます増大してきていることは,情報教育に携わる多くの者が認めるところである.しかし我が国においては,この分野に関して突っ込んだ議論や事例研究等の積み重ねが欧米に比べて少ない.本研究では,北米における情報処理科目で広く採用されている教科書の中の二つを取り上げ,それらの中で情報倫理がどのように取り扱われているかを分析した.両書ともに情報倫理を幅広い視点でとらえ,非常に「現実的」に論点を提示し内容を展開している.我が国における情報倫理教育のために適したカリキュラムを作成し,それを有効に実施できる教授法を確立するためには,欧米における先行事例の分析と研究が必要である.

14. 高等学校段階におけるインターネット活用と情報倫理教育

高橋参吉(大阪府立工業高等専門学校),西野和典(大阪府立旭高等学校),山上通惠(兵庫県立神戸甲北高等学校),河俣英美(大阪府立四条畷北高等学校),泉博夫(大阪府立和泉工業高等学校),中島啓介(大阪府立北野高等学校),金田忠裕,乾達巳,北野健一(大阪府立工業高等専門学校)

 高等学校では,ワープロ,表計算やインターネットを活用した情報教育が行われている.高等専門学校では,低学年の情報リテラシー教育で,コンピュータ操作,インターネット活用,情報技術の応用などが教えられている.それゆえ,高等専門学校の学生は,情報処理設備からインターネットを自由に利用できる.しかしながら,インターネットの情報倫理に関する問題点もいくつか話題となっている.これらの情報教育の中で,情報倫理教育が充分行われているとは言いがたい.本稿では,高等学校の生徒や高等専門学校の学生に実施した情報倫理教育の実践例などについて報告する.

15. ネットワーク市民と情報倫理の課題

江澤義典(ezawa@res.kutc.kansai-u.ac.jp 関西大学),安藤倬二(tomando@mb.infoweb.or.jp オプテックス),中條道雄(chujo@ksc.kwansei.ac.jp 関西学院大学),臼井義美(usui@osaka.jip.co.jp 日本電子計算),赤松辰彦(akamatsu@kuins.ac.jp 関西国際大学),工藤英男(kudoh@info.nara-k.ac.jp 国立奈良工業高等専門学校)

 一部の専門家だけがコンピュータネットワークを利用した情報処理の恩恵を受けていた時代から,一般の市民までが同様の情報ネットワーク活用を行なう時代に変化してきた.このような時,旧来の情報メディアを前提に構築されていた様々な社会ルール(憲法,条約,など)では適切な処理ができ難い問題が山積している.ネットワーク市民の活動を促進する社会を支えるという意味での「情報倫理の課題」について報告する.

16. 討論 初等中等教育における情報倫理教育の確立を目指して

問題提起:江澤義典(ezawa@res.kutc.kansai-u.ac.jp 関西大学 総合情報学部)
中條道雄(chujo@ksc.kwansei.ac.jp 関西学院大学 総合政策学部)
武井惠雄(takei@ics.teikyo-u.ac.jp 帝京大学 工学部 情報科学科)
司会:小林修(kobayashi-osamu@personal.email.ne.jp)

 初等中等教育における情報教育の本格的な開始にあたって,情報教育における倫理教育の必要性が論じられているが,何が情報倫理教育であり,どうやってその教育を実施するのかについては,学問的な検討が未だしである.情報倫理とその教育について,多面的な検討を行う目的で,このパネル討論会を開催する.


第51回研究発表会

 日時:1999年 2月 23日(火)10:30〜16:30
 会場:情報処理学会 会議室

1. 構造化チャートを利用したアセンブリ言語教育の提案

神村 伸一(kami@cc.cstt.ac.jp 東北科学技術短期大学 情報工学科)

 構造化チャートの一つであるPAD(Problem Analysis Diagram)を利用して チャートで表現した論理記述から機械的にアセンブリ言語のプログラムを生 成する教育方法について述べる.アセンブリ言語のプログラミングに必要な基本制御構造とその制御構造を実現するアセンブリ言語の命令パターンを定義したコーディング規則を準備する.学生は演習プログラムをPADで記述した後,PADとコーディング規則を対比させながら機械的にアセンブリプログラム を書き出すことができる.この結果,高級言語のプログラミングと同様の感覚でアセンブリ・プログラミングが可能となる.

2. 初心者入門用言語「若葉」によるプログラミング学習環境の設計と実現

吉良智樹,並木美太郎(東京農工大学 工学部),岩崎 英哉(東京大学 工学部)

 プログラミング教育の重要性が増す一方であるのに対し,プログラミング 入門用の言語が初心者にとっては習得が難しく,その役割を果たしきれてい ないという現状がある.そこでアンケートなどの結果を参考に,習得が容易 な新しいプログラミング言語「若葉」を設計した.一つの制御構文には一つ の記述方法,変数の型を数値型と文字列型に限定,などといった言語仕様の 簡略化が,プログラミング技術の習得を容易にする.また,若葉によってプ ログラミングの学習を行う際に,Javaとの関連によるポータビリティの保 持,ネットワークへの対応といった特徴がある.本論文では,若葉の言語仕 様と若葉コンパイラを中心とした学習環境の設計について述べる.

3. インターネット上のモラル意識の変動に関する考察

村田孝子(murata@po.cc.yamaguchi- u.ac.jp 山口大学 総合情報処理センター)

 インターネット上の情報倫理に対して,早急に教育を実施することが大き な課題となっている.そこで,2年度にわたり情報倫理の重要性あるいはそれ らに対する問題意識が,インターネットユーザ達にどの程度保有されている かについて大学生を中心に調査し,モラル意識のレベルとその変動の要因 を探り,今後の情報倫理教育のあり方を明らかにした.

4. 情報教育に何が一番必要か

中川正樹(東京農工大学 工学部),武井惠雄(帝京大 学 理工学部),大岩 元(慶應義塾大学 環境情報学部),小谷善行(東京 農工大学 工学部),都倉信樹(大阪大学大学院 基礎工学研究科)

 初等中等教育においても情報教育が始まろうとしている現状において,ソ フトウェアや教材,運用,教育などの情報そのものに対する認識の低さ,体 制の不備が深刻な問題となっている.本稿では,こうした状況において,情 報処理学会,そして,大学に何ができるか,何をなすべきかを検討する.そ して,その検討に基づいて,教育基本ソフトウェアと電子教材の開発,およ び,参加者も共に学び現場で求められる教材を育む場としての情報教育支援 形態の確立などを目的とするプロジェクトの発足を紹介する.

5. 前橋市教育情報ネットワークMENETの構築 地域ボランティアとの協 力を通して

折田一人(前橋市教育委員会 学校教育課)

 前橋市教育委員会では,平成9年度から今後の情報化社会の急激な進展を見 込み,社会の変化に主体的に対応し,情報の収集や発信などができる児童生 徒の育成を目指して,「前橋市教育情報ネットワーク」の構築に着手した. このネットワークは,インターネットへの接続を含めた市内各学校(園)・ 教育機関等を結ぶ情報通信ネットワークであり,前橋市の公的機関のネット ワーク推進の一翼を担うものである.今年度は市内の全中学校18校と小学校1 校,市立前橋高校のコンピュータがネットワークに接続された.来年度以降 は,市内の各学校及び教育機関への接続を順次展開し,一人一人の児童や生 徒や教職員が使いやすいネットワーク環境を提供していく予定である.

6. 小中学校の情報教育を支援する地域活動

中島義之(大日本印刷 C&I総合企画開発本部)

 小中学校の情報教育,特にインターネットを利用した情報教育を進めるに は多くの技術的な問題や課題を抱えている.これらの問題や課題を地域の技 術者による構内LAN構築というボランティア活動でどの程度解決できるのか, また,この活動による技術的・経済的な側面以外の情報教育への動機付けと いう心理的効果や今後の課題等について実践例を通して示す.

7. 玉川学園におkるK-12の情報教育の実践

富永順一(玉川学園 中学部),中村 純(玉川学園  高等部)

 玉川学園では,幼稚部から大学までの全キャンパスでネットワーク環境を 整備し,小学部4年生から本格的にスタートするネットワーク活用を中心とす る情報教育や,CHaT Netと名付けた児童生徒,家庭,教職員が一体となって 参加する教育用ネットワークなど,様々な情報教育上の試みを実践している. 本報告はその情報教育の概要とそこでの取り組みの結果を報告するもの である.

8. 学内キャンパスネットワーク(CHaT Net)の構築と活用

清水英典(玉川学園教育研究所/玉川大学 工学部)

 玉川学園では,幼稚部から高等部までの学校全体の情報教育への取り組み として,生徒,教員全員が参加し,さらに家庭の保護者も参加する教育用情報 コミュ ニケーションネットワークCHaT Net(Children Homes and Teachers Network)の本格的 な運用を本年度(1998年度)より開始した.これは, FirstClassによるBBSを中心に したネットワークとWebの活用で,特に児童生徒 の家庭と学校とをIPにより接続し, 学校と家庭とが双方向の情報の流れを持つ 点に大きな特色がある.今回はこの運用の実際を中心に発表を行う.
(依頼によって著者が作成した概要.研究報告集に概要は添付されていない)


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